「話をして、から。
翔さんに植え付けられた恐怖は簡単に消えないから」
オレの言葉に、
「そうだな」
と頷いたけれど、握られた手はそのまま。
「ニノの部屋のドア、開けてくれる?
怖いなら、やっぱりこのまま俺は帰ってもいいんだよ?」
カズの部屋の前、立ち止まって俯いたオレに翔さんの優しい声。
終ぞ聞いてなかった翔さんの声に弾かれるように顔をあげればさっきまでの涙はもう無く、切なげな目でオレを見つめる。
「今、開ける」
カチャカチャと音が鳴ってしまうのは手が震えているせい。
翔さんと結んでいた手を離し、両手で鍵を開ける。
「そこ、真っ直ぐ行ったところがり、しょ、翔さ!」
ドアが開き2人くつを脱いだところで息が吐けないくらいの力で背中から抱き締められた。
「や、やだっ!離してっ!」
「潤、潤、愛してる」
そう言われても、暴力的な行為には身体が強張り、腕の中から逃れようとするけれど翔さんの手はびくともしない。
「ず、ズルいよ!騙し討ちじゃん!
お願いだから離して!離してぇっ!」
まわされた手を拳で叩き続ける。
やっぱりこの人は…。
裏切られたショックで涙が落ちた。
ポタリと翔さんの腕の上に落ち、シャツに染みを作る。
「イヤだぁ!離してぇ!」
叫んでも、もうどうしようもない。
あの日…別れようと思ったあの日の恐怖がよみがえってきて吐き気がする。
クラクラとする頭、目の前には星が飛ぶ。
膝から崩れそうになったオレにはもう逆らう気すら起こらない。
また、おんなじだ。
そう思った時、翔さんがオレから身体を離し、
「これじゃあまた同じ事の繰り返しだな。
ごめんな、潤。
俺はお前を傷つけることでしか愛情を表現できねぇみたいだ」
オレの脇に手を回して廊下に座らせるとため息と共に呟いた。
続く