客人の訪問を告げる音。
あの方でも潤でもない。
「誰だ?」
使用人に問えば、
「それが・・・」
歯切れの悪い言葉。
ああ、この時が来てしまったのか。
カツカツと靴音を鳴らして俺の前に現れたのは、
「三宅さま」
翔だった。
「何しに来た」
本当はわかってる。
けれど、その決心を翔の言葉で聞きたい。
それは、自らの過去と決別すると言う決心。
聞きたくはないのだ。
このまま帰ればいいのに。
「あなたに」
「俺に」
「お、雄に、していただきたいんです」
ああ。
やはり潤さまを愛する心は止められなかったか。
お前は・・・潤さまの愛を疑ったわけではないかもしれない。
けれど、その先を望むのか。
ただ・・・。
「お前には無理だ」
「三宅さま!
僕は覚悟を決めてきました。
この事で潤様に・・・潤様にお叱りをうけようとも。
戻れなくても!
お願い致します!」
「翔、お前は潤さまをお好きだろう?
もう、戻れないかもしれない道をどうして選ぶ?」
俺は、その道を選んでこの屋敷に縫い止められた。
この子にはそうなって欲しくないとずっと思っていた。
「好きだからこそ、誰にもとられたくない!
岡田様に鳴かされている潤様もすべて、僕の物であって欲しい!
誰にも渡さない。
それこそ、あんな女にも!」
心だけでは満足がいかなくなったお前は、潤様の全てを求める。
それが白日の下に晒されたとき、潤様はお前をここに連れてくるだろうか。
それとも、別の手立てを考えるかな?
どちらにしても・・・。
「愚かな子だ」
踵を返し、暗い廊下へと翔を導いた。
続