目覚がさめて辺りを見回しても潤様はいらっしゃらなかった。
潤様・・・。
身体を起こせばチリンと先程の鈴が転がった。
潤様・・・。
泣いてはいけないと分かっているのに涙が落ちてくる。
潤様にとって僕はただの道具でしかないって事は分かってたんだ。
幼い頃から潤様の秘書に足る人間なるように英才教育をされてきた。
あんな汚い場所に生まれて、身体が弱く逆らわない僕は孤児院のシスター達の鬱憤ばらしとして叩かれた。
そんなところから救い出してくれた潤様。
これ以上の何を望む?
「望んじゃいけないよ」
「何を望んじゃいけないんだ?」
膝に埋めていた顔を上げれば、いつのまにか潤様が椅子のところに立っていた。
「じゅ、んさ、ま」
かつかつと靴音を響かせて潤様が僕のところに歩いてくる。
慌てて涙を拭き、
「申し訳ございません。
今すぐお部屋を辞します」
掛けられていたシーツを剥がして立ち上がろうとした僕は、先程まで責め立てられていたせいでぐらりと身体が揺れベッドの上でよろけてしまう。
その僕の身体は潤様の伸ばした腕に絡め取られて、強く抱き締められた。
「あ」
「そのまま」
優しい口唇が僕の口を塞ぐ。
こんな口付け御本邸に来てから1度もない。
そっと髪を撫でられて、僕の頭の中を過るのは嬉しさと戸惑い。
そして希望。
きっと今だけだってことは分かっている。
潤様の気まぐれ。
そう思わなきゃいけないってことはこれまでに学んできた。
けど、けど・・・。
僕は潤様が大好きだから。
愛してるから。
その気まぐれですら嬉しいんだ。
ポロポロと落ちる涙は潤様の口唇で全て受け止められていった。