智慧が来るのは夕方だと言っていたがあの女の事だ。
何だかんだと理由を付けて俺に会いに来るんだろう。
入浴を済ませ、いつ来られても困らないような格好をしようと部屋に戻れば、ベッドの上膝を抱えて肩を震わせている翔の姿。
あの姿を生み出しているのは俺だと思うと心苦しくなる。
愛してると言ってやりたい。
眼を反らして衣装部屋の方へ足を向ける。
その時だった。
ひきつるような声で、悲しみを滲ませて、
「望んじゃいけないよ」
そう翔が言った。
「何を望んじゃいけないんだ?」
思わず漏れてしまった声。
足は翔の方へ自然と歩き出してしまう。
ハッとした顔をしてベッドから降りようとした翔の身体がぐらりと揺れた。
ああ、無理をさせ過ぎた。
手を延ばし身体を支えれば目の前には揺れる瞳。
抑えなければいけない思い。
けれど抑えきれない思い。
そっと口唇を合わせる。
離れきれず髪を撫でれば、後から後から涙が溢れ落ちる。
翔の涙が止まることはないことを知りながら、何度も何度もこの涙が止まるまでだと自分に言い訳をして。
けれど、その言い訳は翔を愛している俺には紙屑のようなものだった。
そっとその身体を横たえシーツを剥ぎ取る。
ゆっくりと髪を撫でながら口唇を合わせ、口唇を開かせる。
ああ、こんな口付けをずっとしてなかった・・・。
愛しているとは言えないけれど・・・今だけは・・・。