18.雪
しんしんと雪が降る。山深いこの高遠では音も無く雪が降り積もる。
ボクのいるこの屋敷も全てを飲み込んでしまう。
全てから離れ、心静かになれるかと・・・でも、そうじゃなかった。
何も聞こえてこない。何が起きているのか分からない・・・雅紀さまも翔も・・・どうなってしまったのか・・・。
猶更に、心はざわざわと落ち着かない。
ボクのせいで、生活の糧を失ったものもいる。罪に問われ、大奥を追われたものもいる。
翔もまた、遠い島へと流され、その生死も分からない。
ボクは雅紀さまが庇ってくださったから、この高遠でひっそりと生きている事が出来る。
けれど、兄は斬首、弟は追放とあれば生きている事の方が憚られて仕方がない。あの時、死罪になっていれば良かったのに・・・。
自害しようと何度も思った。けれど、ご自身の立場と引き換えに、雅紀さまが救ってくださった命であれば赦しも得ずに命を絶つ事はできない。
それもまた、ボクに与えられた罰・・・。
ボクが犯した罪は、計り知れないほどの人を巻き込んで不幸にした。
ボクはすべてを飲み込んで経をうつす。
もう何年も、この部屋からも出る事なく、ただひたすらに、翔を、雅紀さまの無事を願って書き連ねる。
書いては燃やし、燃やしては書いた。
贖罪のつもりはない。ボクの罪は赦されてはいけないものだから。
ただ、ただ、雅紀さまが笑っていらっしゃいます様に。翔が無事でありますように、と。
たった1つある、明り取りの窓辺に柔らかな日差しが射しこみ、小鳥だろうか影が落ちる。
写経の手を止め、窓辺を見上げれば木々の上に降り積もった雪が落ちる音がした。
巾着草:私の伴侶