先日、とある方から「労務管理士という資格についてどう思いますか?」と質問を受けました。
「民間資格だな…」という知識はありましたが、それ以上のことはよくわからなかったので、改めて自分でも調べてみました。
≪ 労務管理士とは ≫
この資格の主催者は複数あります。一般の社団法人等が独自に創設した資格(民間資格)で、数時間程度の講習を受けたのち、理解確認テストを行い、合格した者に対して合格証を渡すという仕組みを取っています。
受験資格は「20歳以上」ということなので、誰でも気軽に受講することができますね。
現在の主催者はおおむね2つに絞られるようですが、数十年前にはたくさんの主催者が乱立し、いわゆる「資格商法」なることをやっていたようです。
とりあえず受講料は数千円から1万円程度に設定し、受講する人の間口を広くし、できるだけ合格者数を増やします。その後、登録料、月会費、上位ランク資格への誘導(2級から1級とか)していたようです。
あまりにもひどいことをしたのでしょう。その主催者名はここでは伏せますが、平成19年(2007年)には「当該資格は公的なものではなく●●●●が独自に創設した資格であって、社会的に価値あるものとして高く評価され就職に非常に有利であるという事実はない」という排除命令を公正取引委員会から受けた法人がありました。バッサリと切り捨てられていますね。
現在の会社で仕事に役立てようとするならば、受講してみるのもいいかもしれません。
自分ならば、受講だけして、登録以降の内容はしないと思います。理由は後述します。
ただ、数時間の講習だけすべてを理解するのはとても難しいと思います。
後述しますが、社会保険労務士試験対策の予備校に通った場合、この分野(労働基準法および労働安全衛生法)の講義はおおむね1か月半から2か月程度行います。とても大事な分野なので、それだけ時間をかけるわけです。これは個人の意見になりますが、2か月かかる講義を数時間だけ理解するなんて自分にはできそうもありません。
≪ 社会保険労務士とは ≫
社会保険労務士は、社会保険労務士法に基づく国家資格です。
自分の生まれた年から数年後にできた国家資格でおよそ50年くらいの歴史はありますが、他士業と比較すると最も後発の若い資格です。
労働基準法は前身の工場法を引き継いで昭和22年に制定されました。戦後の復興期に合わせて、各種社会保障制度に関する法令が制定されていきましたが、同時に労務管理や社会保険に関する事務手続きは複雑化および多様化してゆきました。
それに対応してゆく専門的職業として誕生したのが「労務管理士」と「社会保険士」という職業なのですが、当初は業界団体もなく、各自がそれぞれ自由に活動していたため、中には代行業務を請け負うにあたって著しく高額な報酬を求めたり、あるいは労働争議に介入する者が現われるようになりました。
そこで、それぞれ業界団体を結成し、途中紆余曲折を経ながら、議員立法措置から現在の社会保険労務士制度は誕生しました。
受験資格は学歴要件、所持資格要件、職歴要件などがありますが「大卒もしくは短大卒以上」という学歴要件で受験している人が多いようです。この学歴要件を満たすことができれば学部(専門)は不問です(文学部だろうが工学部だろうがOKです)。
合格率はおおむね4~8%程度。ここ数年は6%前後に落ち着いています。
自分が受験した頃は8~9%程度はありましたから、今だったら合格できないかもしれません。これは余談ですが、受験時には「周りを見渡し11人中でトップに立てたら合格できる!たった11人だよ!」と自分を奮い立たせていたことが思い出されますね。
もうひとつ余談です。このブログを読んでくださる方はランナーの方が多いので、フルマラソンの走破タイムに置き換えてみるとわかりやすいかもしれません。上位6%はおよそどれくらいかというと、次のようになります(データ出展元:RUNNET全日本マラソンランキング2019)。
男性…3時間30分以内(6.1%)
女性…3時間45分以内(6.3%)
自分には到底達成できそうもありません(涙)。
合格するために必要な学習時間は「おおむね800~1,000時間程度」と言われています。
ですから、予備校でも1科目に1~2か月くらい時間をかけるわけです。
≪ 両者の違い ≫
最も大きな違いは「業として報酬を得ることができるかどうか」です。
社会保険労務士の仕事は大きくわけて3つあります。それぞれ●号業務と呼ばれています。
なぜ●号業務なのかというと、根拠規定が社会保険労務士法2条なのですが、この条文の項目番号がそのまま●号業務となっているわけです。
1号業務…行政機関に提出する申請書等の作成および提出
2号業務…労働社会保険関係法令に基づく帳簿書類の作成
3号業務…労務管理や社会保険に関するアドバイザー業務(コンサルタント業務)
このうち3号業務だけは社会保険労務士資格を持たない者でも報酬を得て業務を行うことができますが、1号業務と2号業務だけは「独占業務」といって社会保険労務士でない者が報酬を得て業務を行うことはできません。これに違反すると、罰則もあります。
参考は下記webページ
そこで前述した「労務管理士資格は受講しても、登録はしない」といった理由はここあるわけです。
労務管理士に登録しても、できないことが多すぎるので、登録費用や月会費などのランニングコストが無駄になってしまいますから。
知識を得るだけであれば、もちろん有効だと思いますから受講するのはいいことだと思います。ただ、それ以上のことにはメリットがないように感じられます。
あと、これはネットの情報のみなので不正確なのですが、労務管理士資格講座を受講し修了試験に合格したひとが数日後その主催団体から「あなたを当協会に登録したので、登録料として55,000円を支払ってください」という内容の郵便物を受け取ったそうです。一度払い込んでしまうと取り戻せない確率が高いですから充分にご注意ください。
また、登録してしまったひとは後日「上級資格へ勧誘を受けた」という記事もありました。これはちょっとカモられていますね。
資格商法はなくならないんですね。
皆さまも充分にお気を付けください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
≪ 参考文献 ≫ 社会保険労務士白書(全国社会保険労務士会連合会発行)