昨日の続き。

 

0歳児。生来健康。

救急搬送されてきて、同乗のご家族の話によると、

元気よく啼泣していたが、その後泣き止みぐったりした、とのこと。

 

来たときには血圧なども保たれてはいましたが、顔色もあまりよくなく、循環が悪いのかな、という印象。

泣いていたところ急にぐったり、ということなので、まずは急激に循環が悪くなる赤ちゃんの病気、ということで、

「僧房弁軸索断裂」や「心筋症」などの病気を疑ったりしますが、

そのうちに突然痙攣しだし、CTで頭蓋内血腫、さらに眼底出血。

 

ここまで揃えば、答えは、

 

虐待

 

です。

大声で泣き止まない赤ちゃんを強くゆする「揺さぶられっこ症候群(shaken baby syndrome)」です。

 

この場合、悲しいことですが、まず親からは特に始めは正しい情報は得られません。

気が動転しているのもあるし、罪悪感ももちろんあるし、ばれたくないという心理も当然働きます。

でも多くの場合は、やっぱり本気で赤ちゃんを心配しているので、親御さんの態度からは判断はできません。ついでに言うと、親の言っていることが本当かどうか、判定するのは小児科医の仕事ではありません。ただ、目の前にいる子供の病態を把握して正しい診断をし、治療に結びつけることだけです。


今回も「大泣きしていた (ので、強く揺さぶってしまった) ら、そのあとぐったりした」の()内の重要な情報が抜けていて、最短距離で診断にたどり着けませんでした。

実はこれ、実際あった症例ですが、ちょっと分かりやすく改変しています。

実際はけいれんを起こしたのは入院してしばらく経ってからで、当初は心臓の病気を想定して頭部CTは後回しにしてしまっていました。

その間も、ずっと心臓の動きは悪かったのですが、それは実は脳のダメージからくるものだったようだと判断するのに、数日かかりました。

結果、ICUに入れたりするのも遅れて、脳を保護しにかかるのも遅くなってしまいました。

()内の情報さえあれば、きっと違っていたでしょう。

 

日常的に虐待をしていれば、骨折線や皮下出血などがありますが、そういったケースは稀で、ほとんどが「魔がさした」という感じの、育児ストレスに疲れ切った状態から、衝動的に行われるものです。

私も何例か経験していますが、まったく虐待を疑っていなくて診察中にいきなり心臓が止まりそうになって動転したものやら、親が嘘で塗り固めていたものやら、親がうつ病だったものやら、いろいろ経験しました。

赤ちゃんは被害者。でも、親もある意味被害者。周りがどうにかしてあげられなかったのか、こうなるまでに誰かに助けを呼べなかったものか。

いつも小児科医が頭の片隅に置いておかなければいけないのに、なかなか疑えないもののひとつです。