イスラエルの賢王ソロモンが、シュラムの娘に一目惚れをし、ソロモンの城に連れて来られた時の会話。

 

 ソロモン王の王座前には、六十人の王妃と大勢の花嫁候補の乙女達が集まっていました。

 

そして、シュラムの娘は花嫁候補の女達によって最前列に座らせられる予定です。

 

あなたほどの美しさならソロモンの王妃になれるわといわれ、無理矢理連れてこられました。

 

そのシュラムの娘を連れて来た花嫁候補が奥の部屋で、シュラムの娘に話しかけます。

 

 

 「ソロモン様、あの方が私にキスしてくださるなら……。あの人の愛情表現は、私を酔われてしまうお酒以上なのです。あの人の香油はとても良い物、彼の名前も私を虜になってしまいます。

 

私達、六十人の乙女らは彼を愛したのです! ソロモン様、あなたのもとに私を引き寄せてください。(シュラムの娘を見て)あなたも私と一緒に走りましょう! 王は私達を奥の部屋に連れて来ました! 

 

ぜひ、私達は彼のことを喜び、歓び楽しみましょう。ぶどう酒で酔うよりも、ソロモン様の愛情表現で酔いしれましょう。こんなに多くの妻達が彼を愛したのは当然のことです! 私もその中に入れてください」

 

(ふー、バイトとはいえ、演技するのも疲れるわ……)

 

 

 シュラムの娘は発言することを許された。

 

「エルサレムの娘達よ、私は肌の黒い娘なんです。そりゃあ、人からは美少女なんて心ないことを言われてますけど……。上等に黒い布のようだと言われることもあります。(誉めているつもりでしょうけど……)

 

私の肌の色が珍しいからと言って私を見つめないでください。太陽が私を見たので黒いのです。

 

 

 私の兄は私に対して怒り、私にぶどう園の番をさせました。(料理がまずいくらいで、あそこまでしなくても……)私も自分のぶどう園を持っていますが、自分のぶどう園はほったらかしにしました。

 

その理由こそが王様と結婚できない理由なんです」

 

(まあ、ホントは怠けてただけだけどね。両親と兄達がうるさいから、いろいろ頑張ってるふりしてるけど、基本怠け者だし。完璧主義の兄達には付いていけんわ。

 

やべー、理由考えなきゃ……。怠けものといっても、一応恋する乙女だし、六十人も王妃のいる王の妻とかマジ勘弁! 

 

どう見てもめんどくさそうだし、若くして毒殺とかも嫌だし……。いいや、男がいるって言っとこ)

 

 

 「私には好きな人がいるのです。私は自分のぶどう園に行く途中でその人に会ったのです。

 

私はこう言いました。私はあなたのことが好きです。どうか私に教えてください。あなたはどこで羊の群れを飼っているのですか? 

 

真昼にはどこに羊の群れを休ませるのでしょうか? 

 

私は一人だけ取り残され家畜の群れを世話して、悲しい思いをしないといけないのでしょうか?

 

 

 すると、若者はこう言いました、美少女さん、あなたが自分で分からないなら、自分で羊の群れの足跡に付いて出て行き、羊飼い達の泊まる場所であなたの子ヤギ達に草を食べさせなさい」

 

(ちょっと冷たい感じの人が私のタイプなの。所謂、ツンデレ系よ。要所要所、大事な部分は助けてくれて、基本は冷たくあしらう。めんどくさくなくて理想的だわ)

 

「私は彼に付いて行き、こうして二人は一緒に時を過ごすことになったのです……」

 

(そんな彼氏が欲しいな……)

 

 

 ソロモンとシュラムの娘が会う時間になり、エキストラの娘達と一緒に王の間へ連れて来られました。

 

ソロモン王はシュラムの娘を見て愛情表現を語り出しました。

 

 「私の友よ、あなたはエジプトのファラオの兵車の雌馬のようだ。あなたの頬は髪の毛の間にあって麗しく、あなたの首は、私のあげるネックレスの中にあってこそ麗しい。

 

私達はあなたのために金のネックレスを作ろう。ついでに銀のヘアピンも……」

 

(ふん、女なんてプレゼントで、ころっと落ちるものよ……。

 

ましてや田舎者の小娘、これほどのネックレスとヘアピンは見たことすらあるまい。

 

さあ、私を愛するが良い! 本来は数年働いても得られるかどうか分からん上等品だぞ!)

 

ソロモン王はシュラムの娘に高価なプレゼントを見せ、気を引こうとする。

 

 

 シュラムの娘には逆効果だった。

 

(うわ! 私は金属アレルギーなんだよ……。でも、ここで言うと殺されるかもしんないし、黙ってるしかないけど、あんなんもらっても困るわ。実際、お金持ちのおっさんとかが無理してくれるけど、迷惑でしかないのよね。

 

売るに売れないし、痒いし、重いし、花のネックレスとかのほうがまだ良いわ。金より優しい青年と燃えるような恋がしたい……)

 

 

 シュラムの娘は断る言い訳を考えつき、こう言います。

 

「ソロモン王様がそのテーブルに着いておられる間、私の香料が匂いましたか? 

 

私の愛する方は私にとって、この香料の袋ような香しい方なのです。いずれ、あの方は私の胸の間で夜を過ごすことでしょう。

 

 

 私の愛する方は私にとってぶどう園にある木の花房のようです。私がこう言うと、彼はこう言いました。あなたは美しい、鳩のように温かみがあるからですと……」

 

 

(よし! 彼氏がいるとなれば、奴もあきらめるだろう。彼氏とラブラブのふりをして乗り切ろう)

 

 

 シュラムの娘がそう考えていると、ソロモンの用意したエキストラの王妃達が騒ぎ出しました。

 

「ご覧ください、シュラムの娘さん。あなたは美しく、それに快い方です。そんなかたにはこの青葉の寝床が最適のはずです。私達の寝床もまた青葉の寝床なんです。

 

ちょっと 寝てみてください。そうしたら、ぐっすり眠れますよ。私達、もう他の寝床では寝られないくらいなのです。

 

それに、この大きなお城!

 

私達の壮大な家の梁は杉、垂木はねずの木なのです。こんなりっぱなお城、外国にだってありませんよ。ソロモン王だからこそ住めるのです。私達は幸せ者です。あなたも一緒に住めばよろしいのに……」

 

(私、いい事言った。ソロモン王から特別手当が期待できるわ! さあ、小娘、王の妻になりなさい! 私のために!)

 

 

 シュラムの娘は即座に断りの言葉を言いました。

 

「私は沿岸の平原のただのサフラン、低地平原のユリです。そんな大きな家は必要ありません。

 

(掃除がめんどくさそう。外の仕事ばっかりで、家の掃除とか苦手なんだよね……)

 

 

 ソロモン王は自らシュラムの娘を落とすために応戦する。

 

「そんなことはありません。娘達の中にあって、あなたはトゲ草の中のユリのようです」

 

ソロモン王は真近でシュラムの娘を見て、(お前が欲しい!)と思いました。

 

 

 シュラムの娘はソロモン王を無視して、自分の世界に入り出したふりをしました。

 

「人々の中にあって、私の彼氏は森木の木々の中のリンゴの木のようです。私はその陰を恋い慕い、そこに座りました。その実は私の上顎に甘かったのです」

 

(なんとか、証拠を求められない程度にラブラブ感を演出しないと……。キスならギリギリ許容範囲、それ以上はアウトよ!)

 

「彼は私をメロメロに酔わせてしまいました。お酒ではなく、彼の愛の言葉によって私を酔わせてしまったのです。その愛の言葉が忘れられません」

 

(まあ、実際にはそんな乙女チックなことないんだけどね。最近話した男性は、お兄ちゃんが金返してって来たくらい……)

 

 

 シュラムの娘は恋に病んでいるふりをして、こう言いだした。

 

「あなた方はブルーベリーのお菓子を焼いて、私を元気付けてください。リンゴで私の力を保させてください。ウサギリンゴがいいです。私は恋の病に侵されているからです。

 

私は、あの方の左手に私の頭が置かれ、その右手で私を抱くことを切望しているのです。

 

 

 しかし、エルサレムの乙女達よ、私はあなた方に向かって、雌のガゼルや野の雌鹿以上に誓いました。愛する時が来るまでは、私の心の中にそれを目覚めさせたり、呼び起こしたりしないと」

 

(まあ、恋とかめんどいし、普通の羊飼いとかと十年後くらいに結婚すればいいや。今は、うまい物食ったり、朝九時ぐらいまで爆睡したい!)

 

 

 シュラムの娘がそのような戯れ言をほざいていると、観客席からざわつく声が聞こえてきました。シュラムの娘はそれを親族たちが来た声と思います。

 

(あ、きっとお兄ちゃん達だ! 私の帰りが晩いから心配して見に来てくれたのね。ようやく帰れるわ!)

 

「私の愛する方の声です! 御覧なさい、彼がやって来ます。山を登り、丘の上を飛び跳ねるようにして。私の愛する方はガゼルか牡鹿の若子に似ています。

 

御覧なさい、あの方は私達の壁の後ろに立っています。窓からじっと見ています。格子越しにそっと見ています」

 

しかし、シュラムの娘は不安を感じていた。

 

(なんか変だけど、お兄ちゃんよね……。私に合わせてこの場は乗り切ってよね!)

 

 

 シュラムの娘は演技をし、壁の向こうにいる誰かの声を聞いているようなふりをする。

 

「私の愛する方は答えて、私に言いました!

私の友よ、私の美しい人よ、立って一緒においで。

 

ご覧、梅雨も過ぎ、大雨も終わって通り過ぎました。花も地に現れ、ぶどうの木を刈り込む時が来ました。そして、やまばとの声も私達の地で聞かれるようになりました。イチジクの木は、早なりなので色が熟し、ぶどうの木は花を開いて、その香りを放っています。仕事が忙しくて、人手が必要でしょう。

 

立って、来なさい! 私の友よ、私の美しい人よ、一緒においで。あなたの姿をみせておくれ。あなたの声を聞かせておくれ。あなたの声は快く、あなたの姿は麗しいからだ。その人がこう言ったので、私は家に帰りますね!」

 

そう言ってシュラムの娘は、近くの出口に向かって猛ダッシュする。

 

(ふー、結局一人で言っちゃったわ。兄さんも気が効かないわね……。これじゃ、普通に走って逃げたほうが良かったわ)

 

シュラムの娘は自慢の足を使い、兵士達の目の前を高速で駆け抜けて行く。

 

 

 ソロモン王はピンチに気付き、急いで兵士に命令を出した。

 

「お前達は私達のためにきつねを捕まえろ!

 

私のハーレムというぶどう園を荒らしているその子ぎつねらを……。

 

私達のぶどう園は更に花を開いて美しくなるからだ!」

 

ソロモンの兵士は潜んでいる男を槍で串刺しにした。シュラムの娘はあまりのことに動きを止めた。

 

(やったか? 彼女の男とやらを仕留めていれば、全ての障害はなくなる)

 

出て来たのはごつい顔の男性だった。

 

(ちっ、こいつは最近荒らし回っている札付きのコソ泥、まさかこいつではあるまい……。

 

動きが怪しかったので、隣の男を衝動的に突いてしまったようだな。

 

彼女の恋人は逃げたか……。まあいい、たとえ彼女の親や兄だろうと串刺しにしてしまえばいいのだ。怪しい行動をしたからとか何とかいくらでも理由は付く。

 

その後、傷付いた彼女の心を私が慰めてやればいいのだ)

 

「こいつは泥棒ですか?」

 

「そうですよ。まさか、あなたの恋人ではありませんよね?」

 

「はい、怪しい気配を感じたので、彼を騙しただけです。王に怪我がなくて良かったです。

 

でも、私の愛する方は必ずいるのです。私の愛する方は私のもの、私はあの方のもの。あの方はユリの中で羊の群れを飼っています。

 

私の愛する方よ、日がいぶき、影が去ってしまうまで、帰っていてください。分離の山々のガゼルか牡鹿の若子のようであってください」

 

シュラムの娘は平常心を保っていましたが、心の中は不安でいっぱいです。

 

(ソロモン王、マジヤべーよ! いずれは私の親や兄弟でも殺しかねない。私もお金と引き換えに犯されてしまうかもしれない。早く策を考えないとヤバイ!)

 

シュラムの娘が疲れたと言ったので、今日の所はお開きとなり、シュラムの娘はソロモン王の監視下で休憩することになりました。