ネコーズとモコソンは、どこか良く分からない場所に連れて来られました。
「僕の寿司、僕の寿司、折角いくらが喰えると思ったのに……」
ネコーズは、自分の手(前脚)を見つめ、呆然としています。
「どうやら、僕達はタイムワ―プをしたようだな。
僕はご飯を喰い終わったから良いが、ネコーズは腹減りじゃないのか?」
モコソンは意外にも落ち着いており、周りの状況を分析します。
自分達が誰に連れて来られたかも分かっていました。
そう、神の天使によって、この荒野へ移動させられたのです。
ネコーズは、天使を見付け、ブチ切れ寸前で怒り出します。
「あー、このクソ天使! 僕の寿司を返せ!
いくらを食える時なんて、一ヶ月に一度あるかないかなんだぞ!」
「キャット・ネコーズ、落ちている物を喰ってはいけないよ。
お腹を壊すし、毒を盛られる危険だってあるんだよ」
「そんなの知らないニャン! 早くお詫びの寿司をよこせニャン!」
「ふふふ、良いよ。
ここで一件の事件を解決したら、特上寿司をお腹一杯奢ってあげるよ!
捜査協力をお願いできるかな?」
「特上寿司を腹一杯? する、する、協力するニャン!
あ、でも、稲荷とか巻き寿司じゃダメだぜ!
ちゃんと握り寿司や軍艦のいくらとかじゃないと……」
「ああ、分かっている。それに、今回は前払いで特殊能力を追加させておいた。
楽しみにしていると良い!」
「まあ、特上寿司が食えるなら、ちょっとお腹を空かせておくか。
じゃあ、事件というのを説明するニャン!」
「依頼者は、アベルという名の彼だよ。とりあえず、彼の自宅まで行こうか。
そこで事件の詳細が聞けるだろう」
「そうだな。いくらお腹を空かせるとはいえ、クッキーぐらいは欲しいからね」
こうして、ネコーズとモコソンは、ほぼ強制的に事件の捜査に乗り出した。
アベルという依頼主の身に、何が迫っているというのだろうか?
その人物の家に伺う。
「チンコーン」
ネコーズがそう言い、チャイムを鳴らすと、アベルが出て来た。
チャイムの電子音楽が鳴り響き、現代ではないのかという錯覚に陥る。
しかし、この時代は人間史が始まった古代なのだ。
ネコーズが不思議に思っていると、アベルが玄関に迎えに来る。
「どうも、私がアベルです。こっちは妻のジェシカ。
今日は、捜査協力をしてくださるとか。ケルブ先生からいろいろ話は聞いています。
まずは、兄からもらった紅茶でも飲んでください。コーヒーが良ければありますよ」
「えー、僕は猫用ミルクが良いニャン。
ヤギのミルクとかあるでしょう? それが代用になるニャン!
それと、モコソンは不良だからビールが欲しいニャン!」
「はい。では、ご用意いたします」
ネコーズとモコソンは客室へ向かう。
「ほほう、高級のソファーですね。現代と変わらぬ座り心地。良い仕事しているニャン!」
ネコーズが誉める通り、アベルの家には羊の毛皮で作ったソファーが置いてあった。
それ以外にも、高級家具や暖房器など、快適に暮らせる製品が作られている。
人類史の始まったばかりでは、常識として決してあり得ない事だった。
おまけに、ショートケーキまで出て来るレベルなのだ!
これらの知識をどこで手に入れたのだろうか?
「いやー、ケルブ先生のおかげで、いろいろと勉強させていただきました。
最初は、エデンの園にある自ら回転し続ける燃える剣を何かに利用できないかと考えたのです。
あれって、私達人間がエデンの園に近付くと、自分で近付いて来るじゃないですか。
それで、まずは風呂を焚くのに使おうと考えたんです。
それから、羊飼いとしてここへ足を運び、電気を生み出させる方法や、電気をどのように使ったらいいかという事や、ソファーの作り方、ケーキや食物の作り方を学ばせて頂きました。
もちろん、結婚生活やエホバ神との和解の仕方なんかもね。
兄のカインもコーヒーや紅茶、お酒の作り方を教えてもらっていました」
ネコーズ達を連れて来た天使は、照れながら言う。
「いや―、ケルブ達も彼らを気に入ったようで、自主的にいろいろ教え始めただけですよ。お礼に、ケーキとか食べられますし……」
ネコーズとモコソンは、ケーキや飲み物を飲みながら、この快適空間ができた事を納得する。今は季節が合わないが、おコタやクーラーなんかも使えるという。
現代のオール電化をもしのぐ家が建てられていた。
「うーむ、大変素晴らしい住まいニャン。で、今回の事件というのは何だニャン?」
ネコーズの質問に、アベルはゆっくりと口を開き始めた。
どうやら兄のカインに問題が発生したようだ。
「実は、兄のカインとその妻が、行方不明になっているのです。
以前は、ここへちょくちょく来て、いろいろ農業について聞いていたのですが、なぜかぱったりと来なくなったのです。
兄達は、両親を養いながら実家に居ます。
しかし、私達の両親は、極悪人になりつつあるので、私達夫婦が近付くのは危険過ぎるのです。
今回の事も、おそらく私達の両親が原因です。
どうか、私達の両親から兄達を救ってください!」
「まあ、素人の意見を鵜呑みにはできないニャン。
調査をして、原因を独自で解明させてもらいますよ。
夕方頃には戻ってくるニャン。
ジェシカちゃんは寿司を作って待っているニャン。
贅沢は言わないから、手巻き寿司の準備をしていてくれ。
材料は、鮭(サケ)、鮪(マグロ)、梅干し、きゅうり、卵、ツナ、マヨネーズ、ハム、しそ、乾燥海苔のでかい奴。
後は、自分の入れたい物を用意するニャ!
では、ケーキを喰い終わり、ゴロゴロした後、昼ぐらいに出かけて行くニャン!」
「お願いします」
こうしてネコーズとモコソンは、一時間ほどゴロゴロし、寝たいという誘惑に打ち勝って調査を開始し始めた。
昼頃という事もあって、ジェシカさんはお弁当を用意してくれる。
「これ、おにぎりです。道中に食べてください」
「ありがとニャン! では、行くニャン!」
ネコーズ達は、天使の案内の元、アベルの両親アダムファミリーの家へと向かって行った。
果たして、兄のカインの身に何が起こっているのだろうか?
ネコーズは無事に事件を解決し、高級寿司を食べる事が出来るのだろうか?