アルコール依存症とは、お酒の飲み方(飲む量、飲むタイミング、飲んで良い状況)を自分でコントロールできなくなった状態をいいます。飲むのが良くない、健康状態を害すると分かっていても、脳に異常が起きて飲むことがやめられなくなります。
その点で、アルコールは麻薬や覚醒剤と同様の依存性の薬物だということが分かります。またアルコール依存症は患者さん本人の意志の弱さによって起きるものではなく、医療機関で治療が必要な病気であると認識され始めています。
アルコール依存症にかかると、お酒の飲み方のコントロールができなくなり、生活習慣や人間関係が悪化し始めます。まずは、どういう状態が危険な兆候なのかを見ていきましょう。
飲酒を続けると耐性ができて、酔いにくくなり酒量が増えはじめる
アルコール依存症を発症するまでの期間は、男性と女性で違い、男性に比べて女性ではその半分程度の耐性だといわれています。習慣的な飲酒は、アルコールに対する耐性をもたらします。
飲酒を始めたころには少量のお酒で気分よく酔えていたのが、徐々に酒量が増え、酔った感じがしなくなってくるのです。さらに、家庭や社会生活に影響があっても、気にすることもなく、飲酒量がいつも以上に増えたり、飲む時間や飲む場所を気にしなくなるのです。
この状態でさらに飲酒を続けると、少しでも酒を口にすると自分の意思が働かなくなり、ほどよいところで止められなくなるアルコール依存症になってしまいます。
このような状態に陥ると、妻や夫から「離婚する」、職場で「退職してもらう」、周囲から「命にかかわる」などといわれても飲酒をやめられず、ほぼ毎日数時間おきに飲むようになります。
そして、さらに病気が進行すると、目を覚ますと飲み始め、酔うと眠り、再び目覚めると飲み始めるという、連続飲酒を起こすようになります。
なお、日本では、1日の平均飲酒量が「6ドリンクを超える」のが多量飲酒とされ(右図)、この量になるとアルコール依存症の危険性が高まるとされています。
6ドリンクとは、1日にビールなら500mL缶3本、日本酒なら540mL弱、焼酎(25°)なら300mL、ワインならグラス6杯程度です。
患者さん自身ばかりでなく、周囲の人も巻き込んでしまう
アルコール依存症は、身体、仕事、家族関係などへ悪影響をもたらします。
家族は経済的問題、別居・離婚など深刻な問題に直面することになり、子供は親の暴言や暴力、育児放棄によって健全な心身の発達が損なわれる可能性があります。
職場の上司や同僚には、欠勤や仕事上のトラブルで迷惑をかけて、さらには飲酒運転などによる重大事故の発生などにつながる恐れもあります。
ところが、患者さんはこのような飲酒関連の問題が起きても、家族や周囲の人の注意や説得を聞こうとしません。
これは、アルコール依存症になると、問題が起きても自分に都合よく考えて反省しなくなる傾向があるためです。
また、酒を飲んで幸せに暮らしている自分をとがめる周囲に反発を感じはじめ、依存症の悪影響を否認するようになったり、自分では飲酒の問題にうすうす気づいていながら、周囲に助けを求めなくなるようになります。
アルコール離脱症状によって更なる飲酒の原因になってしまう
アルコール依存症の患者さんでは、体内のアルコール濃度が下がってくると、さまざまな自律神経症状や情緒障害、手の震え、幻覚などの症状がみられるようになります。
これを「離脱症状」といいますが、起きる時期によって、早期離脱症状と後期離脱症状に分けられています。
アルコール依存症による離脱症状
早期離脱症状は飲酒を止めて数時間すると出現し、手や全身の震え、発汗(特に寝汗)、不眠、吐き気、嘔吐、血圧の上昇、不整脈、イライラ感、集中力の低下、幻覚(虫の幻など)、幻聴などがみられるようになります。
後期離脱症状は飲酒を止めて2~3日で出現し、幻視(見えるはずのないものが見える)、見当識障害(自分のいる場所や時間が分からなくなる)、興奮などのほかに、発熱、発汗、震えがみられることもあります。
そして患者さんは、離脱症状による不快感から逃れるために、さらに酒を飲み続けることになってしまいます。そうすると、ますますアルコール依存症が悪化して、健康障害にまで発展し始めます。
アルコール依存症の治療は、早めに関係医療所に助けてもらう事
アルコール依存症治療を開始するうえで最初の壁となるのは、患者さんが依存症であることを否認して自分の症状を認めず専門医療機関への受診を拒否し続けることです。
また、専門医療機関での治療を開始してからも回復には2~3年かかる場合が多く、長い年月を経てようやく安定した断酒生活を送ることができるようになります。
なので、家族は少なくとも3年間を目安として、患者さんの治療に対して関わりを持つ必要があります。適切な治療を受け、再発を防ぐための大切なポイントは以下の通りです。
治療中の患者さんの気持ちは揺れ動きがちになり、精神的に不安定ですが、家族は常に患者さんの断酒を成功させたいという目標に向かって一緒に治療に取り組んでください。
アルコール依存症は、対処法をいろいろと改善していく
治療が順調に進んでいても、患者さんがお酒を少しでも飲めば、アルコール依存症は再発してしまいます。
万一、再飲酒してしまった場合は、再飲酒までの期間、患者さんがどのような状況で断酒を継続できていたかをしっかり振り返り改善しましょう。
アルコール依存症は再発しやすい病気だと理解して、飲酒のきっかけになりそうなものを遠ざけるよう、専門医療機関への通院を続けながら、同じような問題を抱えている人達のグループへの参加を促し、アルコール依存症治療薬を服用するなど予防策を取ることが非常に大切です。
また、家族が医師に正確な飲酒などの事実を報告することが良い改善方法の模索に役立ちます。
日常生活で実行できる断酒のコツ。
- 周りの人に断酒することを宣言すること
- 空腹の時間を多く作らないこと
- ストレスや怒りが生じる場面をなるべく回避こと
- 疲労し過ぎることを行わないようにすること
- 退院後の仕事復帰はよく検討した上で判断すること
- 同じようにアルコール依存症回復に取り組んでいるグループに参加すること
- アルコール依存症治療薬を服用すること
- 飲酒への誘惑があれば断ること
- 居酒屋、バー等のある繁華街に近寄らない
- 職場での付き合い酒の誘いを断る(付き合う人を変えるよう努める)
- ノンアルコール飲料であっても、お酒を想起するものは飲まない方が良い
- 趣味や生きがいを見つけること
- デイケアの利用(ボランティアや簡単な職務、各種行事などへ参加できるサービスです)
- 音楽、映画鑑賞、絵画や将棋など趣味を広げるよう努める
- 断酒日記をつけること
- 断酒は大きな目標を立てるべきでなく、1日1日の積み重ねであることを自覚する
- 断酒を継続できていることを家族と喜ぶ