言霊の彼方【第6夜後編・蠢(うご)き出す異変(へんか)】 | シュレディンガーの猫

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留衣の視線は確かに私を捉えていた。
私を見て驚いたというより、
どちらかというと戸惑いの方が
強いような感じだった。
留衣はふいに眼を反らし、
その表情を曇らせた。
まるで、その事を後悔したかの様に。
左目の眼帯を辛そうに押さえる。
その動作に私は“違和感”を覚えた。

痛みでもない。
恐怖でもない。

ーーそこにあるのは“憎しみ”

他人にではなく、
自分自身に対しての憎悪。
今まで見た事の無い留衣の表情だった。
私はーー。
「…うぐぐ」
クロトさんのうめき声に、
私は意識を引き戻された。
気が付けば、優理子が投げた物の山に
埋もれ、クロトさんが虫の息寸前だった。
「く、クロトさん大丈夫?」
助けてあげたいけど、
私にはどうする事も出来ない。
情けなく、ただ狼狽えるだけだった。
「ハァ、ハァ、とどめのもういっちょ!!」
「…もう止めて、ゆり」
「のぅっ!?」
最後の一撃を加えようとした瞬間、
留衣は優理子の膝の内側を手刀で強打した。
いわゆる“膝カックン”というやつだ。
それをやられた優理子は脱力し、
情けなく崩れ落ちる。
床に顔面強打する様は見るに耐えない。
「な、なにすんの!?るいっ!!」
「…こうでもしないと止まらないでしょ?」
「だって奴は変質者よ!?人殺しよ!?
こんな見ず知らずの男にあえかが…」
「…大丈夫よ、そうですよね。“クロト”さん」
留衣は覚悟したみたいに向き合った。
何に対してなのか私には分からない。
ただ、先程の表情は露と消えていた。





ーーー数分後ーーー

助け出されたクロトさんは、
これまでの経緯を二人に説明した。
ただし、そのほとんどは作り話だ。
死神であるということは伏せ、
代わりにクロトさんは私の主治医と
いうことになった。
私は仮死状態になる奇病に侵され、
その病を治す為の新薬の特許で
時間がかかる。
そんな説明だった。
急場しのぎの嘘にしては、
良くできてるなと関心していると、
優理子が急に頭を下げてきた。
「ごめんなさいっ!!私早とちり
しちゃって。あの、その、とにかく
すいません!!」
「…構わない。君のあの行動は、
愛結花を思っての事だろう?
だったら、俺は君を責める理由は無い」
クロトさんの発言に、
優理子は顔を赤らめた。
「そんな…、愛結花を思ってだなんて♪」
何故だろう。
嬉しがる優理子に不安を感じるのは。
「…クロトさん。質問が一つだけ」
「なにか?」
「…あえかは、あえかはちゃんと
“生き返る”んですよね?」
留衣は私を一瞬だけ見たあと、
クロトさんを強く凝視した。
暫し沈黙があった。
そして、クロトさんは
強くはっきりと言い切る。
「必ず!!」
その言葉は強い意志を宿していた。
それを聞いた留衣は緊張を解く様に
大きく息を吐き、そして深々と頭を下げた。
「お願いします」
気持ちに偽りの無い、切なる願いだった。





私は彼女の家を後にしようと、
玄関先まで出向いた。
愛結花の無事が確認出来たのなら、
私は何も言う事は無い。
たとえ愛結花が“霊体だけ”の
存在だとしても、それが最期だと
いうわけではないからだ。
可能性はある、希望はある。
それなら、私に出来る事は、
私自身を変える事。信じる事。
そして、微力でもいい。
細やかな幇助(ほうじょ)でもいい。
全力で手助けする事。
その一点のみの強い覚悟と意志なのだ。
クロトという男。
彼には“偽りの心”が無かった。
まっすぐで、純粋で、強く、
愛結花を救うという確かな想い。
“死神”という存在を擲(なげう)ってまで、
誰かを救おうとする想い。
私には彼が羨ましい。
自分の能力(ちから)を肯定し、
辛く苦しい茨(いばら)を歩む生き方を。
たとえそれが”過去の償い“だとしてもだ。
「すまない、本間さん…だったか。
少し話をしてもいいか?」
「…はい、どういった用件でしょう」
「君は、君は何故、彼女の姿を
確認する事が出来た?それと、
知らせてもいない俺の名を」
もっともな疑問だ。
彼は私の異質に気付いていた。
普通ではない私の能力に。
だが、私は迷った。
或いは怖かったのかもしれない。
信頼を築く前に拒絶される事を。
疑心を、疑念を抱かれ蔑まれる事を。
だから私は嘘を重ねる。
強くない私の心が痛みに和らぐように。
「…私は、霊感が強いから」
「それはない、本来“霊感”など存在しない。次元の隔たりが確固たるものだ」
「……………」
私は言葉に詰まった。
正直に言うべきか否か。
身体が震える。
私の過去の記憶には闇しかない。
失うのが怖かった。
今の平穏と温もりを。
言葉から連鎖する崩壊は絶対的な畏れ。
それが彼にも完全にないとは言えない。
強くありたい。
強くなれない。
変わると決めたではないか。
ーー私には。
「覚悟が出来てからでいい」
「!?」
「直ぐに答えはいらない。
君がいつか話してくれるのを待つ」

ーーーるいちゃんが話して
        くれるまで待つよーーー

驚愕した。
私は同じ台詞を知っている。
私を闇から救ってくれたあの言葉。
あの笑顔。
勝手に涙が溢れてきた。
「…ごめんなさい。必ず…だから、私も」
精一杯の私なりの“覚悟”(いま)だった。
「お、お嬢様~」
そんな時に聞こえた山田さんの声。
何やらとても焦っている様だ。
「申し訳ごさいません!!私が用を
足しに、ほんの少し眼を放したら…」
突如鳴り響く起動音。
これはAH-1Z ヴァイパーの音。
搭乗口を遠目で確認すると、
中には幼い少女が乗っていた。
その少女は好奇心旺盛な笑みを
浮かべながら、手当たり次第に
機器を操作している。
大変危険な状況だった。
少女の身の安全も心配だが、
それ以上に、周囲に被害が及ばないか
危惧する事態になっている。
もし、間違ってミサイルや武器の
暴発など招いたら…。
「これは何じゃ?…ポチっとな」
「あ」「あ」
山田さんと私の声が重なった。
激しい発射音を轟かせながら、
ミサイルは二階の愛結花の部屋に
向かっていった。




[続く]







【あとがき】

6話で7日兎出す予定でしたが、
尺が足りませんでした。
スイマセン(´□`;)7話では「必ず!!」

あと、ブロガーさんのあの案頂きました。
乗っ取ってミサイル発射です(笑)
この後、愛結花にも異常発生w

期待せずにお楽しみ下さい|壁|ω・`)







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