東京オリンピック2020のテーマは

・全員自己ベスト

・多様性と調和

・未来への継承


ある男性は改めてオリンピックへの挑戦を決めた。

それは自身のメダルへの挑戦という事だけではなく、未来の世界へのあり方について一石を投じる意味を込められていた。


彼はトランスジェンダー。

男性として生まれたが自認する性別は女性。


オリンピックへの参加規定では、ある一定の規準がクリアできれば、トランスジェンダーでも参加はできるとある。彼は女性としてエントリーすることになる。


自身のアイデンティティで悩みながら生きてきた自分がオリンピックへの参加を表明する事で、自身のみならず、多くのトランスジェンダーアスリート達に、更なる可能性の道を開くことになるのではないかと思ってのことだった。


もちろんこのエントリーについて、社会では受け入れられない人が多いことは承知している。

「生まれながらの体格や筋肉は男性」

「男が女になって出ればメダルは取れる」

「国によってはメダルを取れば恩給が貰え、一生苦労しない」

「これを認めたらメダル欲しさに性転換してオリンピックに出てくる男がどんどん出てくる」

「根本的に男女は違うから、競技は男女別がある」等等等。

そんなことは100も1000も承知の上だった。


是非はともかく、彼女が投げかけたものは女性となった男性がメダルを取る野望ではなく、トランスジェンダーがトランスジェンダーとしての人格を肯定されること。

今の世界は平等や自由が謳われながら、未だに偏見や差別が横行し、虐めや迫害、行動の制限などが行われている。

そんな世界で、自分がオリンピックに参加することで、次のオリンピックいや、何年先になるか分からないが、性別の乖離に悩む人たちが何の障害もなくオリンピックに参加できるようになる日が来るかもしれない。

それにはTOKYO2020は格好の問題提起となる大会だった。


彼女の挑戦は、結果、メダルに届くことは無かったが、彼女はそれでも十分満足していた。穏やかなその笑顔にやり切ったという心情が現れとても美しかった。



“近代オリンピックの父”といわれたピエール・ド・クーベルタン男爵の言葉は有名だ。


『人生にとって大切なことは成功することではなく努力することである。』


『オリンピックに参加する意義も、つまりはその過程にあって、人間を作ることを理想としている。オリンピックはそういう人たちが参加し、力を出し合いう世界平和の意を表している。』


そして1964年の東京大会へ向けて次のような言葉も贈っている。

『東京でオリンピックが開催されることの意義は、古来のヨーロッパ文化とアジアの洗練された文化・芸術とが混じり合うこと。』

『オリンピックの理念は時代とともに変化しなければならない。』


(諸説、意訳あり)


1894年、パリて開催されたオリンピックは古代オリンピックから近代オリンピックへの転換の大会となった。次回大会はそのパリで行われる。前大会の東京で彼女によって投じられた大きな一石にはとても重要な役割があり、パリ大会の前大会がこの東京であることは必然だったように思えてくる。


3年後どのような答えが導かれるのか。何かと不安定な時代、状況ではあるが、無事に開催できることを願って止まない。