「え?」
「主は、死んではおらん。
ついでに言うが、余が主に与えた恋人とはもう既に出逢っている。
ちなみに、その恋人は、主と恋仲にならなければ地獄行きと言う設定だ。
そして、何を思ったのかその女以外に主と恋仲になりたいと言う女もいる」
「どういう意味ですか?」
「簡単に言いますと一さんは少なくても1人の人から思われていて……
もう1人の人は、かみさまとの契約により一様の恋人になることになっています」
おじいさんが、答えてくれる。
「少なくても2人恋人ができるってことですか?」
俺の問いにかみさまとお爺さんが黙る。
あれ?俺は、おかしなことを言ったかな?
「2人作るか1人作るかは、主の頑張り次第じゃ……」
「そ、そうですか……」
「うむ。
まぁ、主がそんなに器用な生き方はできないだろう。
とりあえず、そろそろ目を覚ませ。
そして、リミットである28歳まで生きろ」
あれ?
さっき、さらりと流したけど俺、28歳で死んじゃうの?
前と同じ歳?
「あの……!」
俺が、質問しようとしたけれどかみさまは、何も答えてはくれなかった。
おじいさんが、優しく「一様、こちらへ……」と言って俺を駅まで案内してくれた。
「ここは、さっきの駅ですか?」
「そうです、ただ行先は貴方が生きていた場所ですが……」
「そ、そうですか……」
「さぁ、電車はすぐに来ますよ。
それに乗っていれば現世へと帰れます」
お爺さんが言った通り、すぐに電車は来た。
俺は、その電車に乗った。
電車の乗り心地は最高だった。
最高すぎて、俺はウトウトと眠ってしまった。
機械音と女の子の声が聞こえる。
「一……
今日はね、リンゴを買ってきたよ。
意識が戻ったら一緒に食べようね」
清空の声だ……
「一、ごめんね。
私、一のことを護るって言ったのに全然護れなくて……
私のせいでこんなことになってホントごめんね……」
清空の声は、涙声。
いや、泣いている。
俺は、ゆっくりと目を開けた。
すると涙でぐちゃぐちゃになった清空の顔が、そこにあった。
「清空……?
どうして泣いているの?」
俺は、小さな声で尋ねた。
体中が痛くて大きな声が出せない。
むしろ体が動かない。
「一、刺されたんだよ?
覚えてない?」
「それは、覚えているけど……」
「いっぱい血が出て手術したんだよ?」
「そっか……」
「うん」
清空が、俺の手を握り締めている。
なんだろう、感覚はないけど温かい気がする。
「私、先生を呼んでくるね!」
清空が、そう言って俺から離れる。
なんか、心が寂しくなる。
なんだろう、清空がかみさまが用意してくれた女の子なのかな?
地獄に落ちたくないから、俺に優しくしてくれたのかな?
そんなことを考えると少し虚しくなった。
与えられた恋人が、地獄に落ちたくないために俺と恋仲になろうとする。
恋人が、出来ないことの方が虚しいのかもしれない。
でも、それでも俺の心の中は何かに満たされていた。
俺が色々考えている間に、清空と一緒にお医者さんと看護師さん、母さんと父さんが俺の病室にやって来た。
「一!貴方って子は、こんな無茶をして!」
母さんが涙を流している。
その母さんの肩を父さんが抱きしめる。
「そうだぞ!
一!今回は、死んでいたのかも知れないんだぞ?」
父さんが、悲しそうな目でそう言った。
「でも、清空を護るにはあれしか方法がなかったんだ……
まさか、ナイフで刺されるとは、思わなかったけど……」
俺が、そう言うと母さんがため息を着く。
「貴方、3日も眠っていたのよ?
清空ちゃんなんて、眠らずに一のそばに居てくれたのよ?」
「清空が……?」
俺は、静かに清空の方を見る。
「私のせいだもん。
これくらい平気だよ」
清空が、小さく笑う。
言われてみれば、清空の顔色がよくない。
目的は何だ?
天国への切符?
それとも、かみさまが言っていたもうひとりの女の子?
このどちらかしか考えれない。
清空が、俺のことを気に掛ける理由がそれ位しか考えれない。
「体は、動かせるかい?」
お医者さんが、俺に尋ねる。
「なんか、動けないです……」
「明日には、動けるようになるさ。
今日1日は、ゆっくり休んだ方がいい」
「はい……
お世話になります」
俺は、小さく笑った。