スローライフ~第九章:自由とバイバイ…… 03 | ニート脱出大作戦β

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~ニートから抜け出す108の方法

 僕は、空の方を見る。
「さ、自由のところに行くよ」
「でも……」
 空が、口ごもる。
「いいから行こう」
 僕は、空の手を引っ張る。
「でも……」
「ってか、小野寺。
 状況がわからんのやけど?」
 海夜さんが、ため息混じりにそう言うと百道くんが口を開く。
「自由ちゃんになんかあったのか?」
「うん。
 ファージ病が悪化した。
 もう、そんなに長くないんだ……」
「なんやて?」
 海夜さんが驚く。
「海夜さんもよかったら来てあげてよ。
 自由、きっと喜ぶからさ」
「ああ。
 俺は行くぞ」
「そんなん行くに決まってるやんか!」
 海夜さんは、目に涙を浮かべている。
「ありがとう」
 僕は、小さく笑った。


 病院に着くとそこには滋くんと美樹さんに愛ちゃん。
 翔太くんに翔太くんママ、透くんと静香さんも来ていた。
 僕が、不思議そうな顔をしていると百道くんが言った。
「俺が呼んだ」
「そっか……」
 僕は納得した。
「自由……?」
 空が、涙目で自由の方に近づく。
 自由は既に管に繋がれている。
「空ちゃんを見つけれたんだね……」
 父さんが、そう言って僕の方を見る。
「うん」
「ごめんなさい……
 今更、こんなときに……」
 空が謝ると自由が嬉しそうな声を上げる。
「あー。
 この声ママのだー」
「自由!」
「パパ、ママと仲直りしたー?」
「うん。
 仲直りしたよ」
 僕は少し嘘をついた。
 それでも僕は嘘をついた。
 空の手を握りしめ仲直りしたように見せかけた。
「そっかー
 みんな、仲良し。
 いいなぁー」
 自由が、小さく笑った。
「自由ちゃんとウチは仲良しやで?」
 自由の手を優しく握りしめる。
「海夜ねーちゃんと自由。
 ふたりは、仲良し」
「僕もいるよー」
 翔太くんが目に涙を浮かべながらそう言うと自由が小さな声で言う。
「翔太くんは、弱虫。
 泣かない子にならないとメーだよー」
「僕、もう泣かないよー」
 翔太くんは、そう言って涙を流した。
「泣いてるじゃん」
 自由が、そう言って一筋の涙を流す。
「自由……?」
 僕の言葉に自由が反応する。
「自由、おねむの時間なのー」
「そっか」
 僕は小さくうなずく。
「自由、起きたら美樹おねーちゃんのお店のメガ盛りポテト食べたいな」
「うん。
 いっぱい盛ってあげる」
「あとね、自由。
 関西弁をいっぱい勉強したい」
「ああ。
 いっぱい教えたるで」
「わーい。
 自由ね、ケンカも強くなりたいから、ボクシングと空手も覚えたい」
「俺のコーチは厳しいぞ?」
 滋くんが、そう言うと自由はうなずいた。
「はい。
 滋にーちゃんの厳しいコーチに耐えるよ」
「ボクシングはケンカじゃないぞ?」
 百道くんがそう言うと自由が笑う。
「うん。
 わかってるよー
 強くなって翔太くんをイジメっ子から護るのー」
 すると翔太くんがぐっと涙をこらえて言葉を放つ。
「僕が自由ちゃんを護るんだよー」
「えへへ。
 翔太くんが私を護ることはないよー」
 自由は、そう言って小さくケラケラと笑った。
「そんなー」
 翔太くんがやっぱり涙を流した。
「翔太くんは、静香おねーちゃんに勉強教えてもらいなさい。
 ケンカは強くなれなくても頭はよくなれるかもだよー」
 自由が、そう言うと静香さんがうなずいた。
「そうね。
 勉強なら少しなら教えれるかもしれない……」
「あとあとあと透おにーちゃん」
「うん?
 なんだい?」
 透くんが返事をする。
「またお本教えてね」
「うん」
「ひゃくまんかいないたねこ良かったよ。
 ありがとう」
「ううん。
 気に入ってくれてありがとう」
 透くんが優しく微笑む。
「パパ、ママ。
 仲良くしてね。
 そして、妹か弟を作ってね」
「自由……」
 僕は、どう答えていいかわからない。
 すると空が自由の頭を優しくなでた。
「そうだね……
 パパとママ仲良しだからすぐにできるよ」
「約束だよ」
「うん。
 約束」
 自由が、眠そうにまばたきをする。
「みんな、仲良し。
 みんな、大好きだ。
 みんなおやすみなさい」
 自由が、そう言うとみんなが返事をする。
「おやすみなさい」
 自由は、小さく笑った。
 幸せそうに笑った。
 
 おやすみ。自由。
 そして、バイバイ。