僕は、五十音順に生徒の名前を呼ぶ。
相変わらずHRだというのにみんな好きにしている。
僕の科学の授業もこんな感じ。
科学は受験には関係ないからね。
素直に聞いてくれているのは、透くんと静香さんだけかな。
海夜さんに至っては、茶々を入れてくることもある。
百道くんは、アンバランサーを作らせろとうるさいし……
もう、ここまでくると学級崩壊に近いね。
英語や数学に関しては、みんなまじめに聞いている。
なんだ……
もう、あれかな。
僕は嫌われているんだな。
僕は、静かにため息をついた。
「なんや?センセイ。
ため息やなんて失恋でもしたんかいな?」
海夜さんが、相変わらず僕に茶々を入れる。
「お。教師のくせに失恋か?」
百道くんに至っては、もやは意味不明だ。
「教師の前に人間だからね。
失恋くらいするさ。
でも、僕は既婚者だよ?」
僕が、そう言うと百道くんが驚く。
「童貞じゃなかったのかよ?」
「そっちの驚き?」
僕は、もはやはため息すら出ない。
「そいつ、子持ちだ」
茂くんが、そう言うと百道くんがさらに驚く。
「この裏切り者が!」
百道くんが、がっくりと肩を落とした。
「子供っていくつなん?」
「4つかな」
「おお、かわええ歳の頃やん。
今度紹介してーなー。
男の子?女の子?」
「女の子だよ」
「うあー。
ええなぁー」
海夜さんが、呟く。
「俺は会ったぞ?
なかなか素直でいい子だった」
滋くんが、得意気に笑った。
「ええなぁー」
海夜さんが、羨ましそうに僕の方を見た。
「で、自由ちゃんは大丈夫なのか?
きとんと説明できたのか?」
滋くんが、心配そうにそう言った。
「わかったのかわかってないのかわからないけれど。
説明はしたよ。
普通の生活を継続したまま治療を受けることになったよ」
「そうか。
つらいな」
滋くんが、そう言ったところでチャイムが鳴った。
「じゃ、僕はこれで戻るね。
きちんと授業は受けてよ?」
僕は、そう言い残して教室を出た。