夜が来る。
静かなる夜に、女の子がふたり僕の家に訪れる。
宮崎さんと蜜柑ちゃんだ。
川名さんは、既に僕の家で晩御飯を作っていてくれている。
「斉藤君は、いつもこんな美味しそうなものを食べているの?」
宮崎さんが、そう言って唐揚げをひとつ摘む。
「あー。
峰子先輩だけずるですぅ」
蜜柑ちゃんがそう言って唐揚げをひとつ摘んで口に運ぶ。
「……どうかな?」
川名さんが、心配そうな表情でふたりの方を見た。
「美味しいわね」
宮崎さんが、そう言うと蜜柑ちゃんがもういっこからげを摘んだ。
そして、もぐもぐと唐揚げを食べている。
「美味しいって目が言っているよ」
僕は、そう言って小さく笑った。
「ですね、嬉しいです」
川名さんも笑った。
「相変わらずふたりはラブラブねー」
宮崎さんがため息をつく。
蜜柑ちゃんが唐揚げを食べる。
「蜜柑ちゃん、そんなペースをあげて食べるとごはん食べれなくなるよ」
僕がそう言うと蜜柑ちゃんは、唐揚げを飲み込んでこう言った。
「私のお腹は、ブラックホールですから」
「そ、そっか……」
僕は再び苦笑いを浮かべた。
「では、ご飯をよそうね」
川名さんは、そう言ってお茶碗にご飯をよそってくれた。
「あ、私大盛りでお願いします!」
蜜柑ちゃんが、嬉しそうに笑う。
「はい、わかりました」
川名さんが、頷くと本当に蜜柑ちゃんのお茶碗にご飯を大盛りに入れた。
「ありがとうございます!」
蜜柑ちゃんの目が輝く。
「蜜柑ちゃんって意外と食べるんだね」
僕が、そう言うと蜜柑ちゃんが首を傾げる。
「意外ですか?」
「うん。
小柄でちっちゃいからあんまり食べるイメージないよー」
「私、結構食べますよー。
鶏さんなら一匹まるまる食べれる気がします」
「鶏一匹の重さって、2~3キロくらい?」
「それくらいならペロリです」
「凄いわね……」
宮崎さんが目を丸くしている。
「では、軽く食べて練習しましょう。
いっぱい食べるとあとでバテますので……」
川名さんが、そう言うと宮崎さんが頷く。
「そうね、ちゃっちゃっと食べちゃいましょう」
そして、僕たちは晩御飯を食べ終えると防音室へと向かった。
「防音室なんてあるの、一先輩の家くらいですよね」
蜜柑ちゃんが、そう言って目を輝かせている。
「うん。
亡くなった父さんと母さんが作ってくれたんだー」
「あ……ごめんなさい」
蜜柑ちゃんが小さく謝る。
「え?どうしてあやまるの?」
僕の問に蜜柑ちゃんが答える。
「だってつらいことを思い出させてしまったから……」
僕は、首を横に降った。
「大丈夫だよ。
もう乗り越えたから……」
「でもでも、なんか申し訳ないです」
「気にしなくていいよ。
今、気にしなきゃいけないのは歌だよ」
「はい。
突撃卒業ソングですよね」
「そそ、今はそれに集中しましょ」
宮崎さんが、そう言って蜜柑ちゃんの頭を撫でる。
「はい!」
そして、僕たちは歌の練習をはじめた。