愛子さんが夏美の夫である勇作を待ったのは

多分、手を下したのは勇作のほうだ

そう確信していたからだ

 

勇作は事務所に帰ってくると

中学の頃の同級生が来ていると聞いて

ふっと顔を曇らせる

しかし、名前を聞いて首をかしげる

全く知らない

 

愛子さんが待っている部屋に入ってくると

夏美が

 

「中学のころ私がよくノートを借りていた愛子」

 

そう紹介されて戸惑ってしまう

何か法律相談なのだろう

そう思って、席に座る

二人が並んだところで愛子さんは

あのメモを二人の前に出した

 

二人ともそのメモには覚えがあった

愕然とする

あの中学三年の頃が二人の頭に蘇ってくる

二人だけしか知らない

夏美の父親殺し

 

「せ、1500万円用意してほしいの!!!

今すぐに!!」

 

世の中にとんでもない毒親がいることは

今では周知のことで

子供は守られなければいけない存在だと

広く考えられている

しかし、あの頃は父親が娘に手を出すなんて

いや、手を出すのは暴力としてだけではなかった

性的関係を強要するなんて

夏美は誰にも言えずにただただ、苦しんでいた