「あ!パパ!」

 

光ちゃんが飛んで行った

抱き上げると、高い高いをしたその男性

ああ、これが夫だった人か

澄香はもう、うんざりな奴だと思った

離婚したくせに光ちゃんをつくり

養育費どころか、秋子から金をむしり取ったやつ

喪服すら来ていない

その後ろに、若い赤ん坊を抱っこした女

 

光ちゃんを抱っこしたまま

忠秀も嬉しそうに近寄ると

 

「あ、これ、パパの新しい奥さんと

子供な!」

 

後ろの女を見てそう言う

澄香はもう、堪忍袋の緒が切れた

やはり呼ぶべきではなかった

来るなら一人でくればいい

今の妻と子供を

元嫁が死んだ葬式で

息子に紹介する馬鹿男に

 

「もう、かえって下さい!

この子たちの前で

なんですか!それ!!!」

 

すると、忠秀が澄香の前に立ちふさがり

 

「いいんだ!母さんが選んだ人なんだから

僕たちだって、大好きなんだ」

 

忠秀にそう言われると

もう、何も言えません

彼は秋子に手を合わせると澄香のそばに来て

 

「葬式、出せるんですね

あの、秋子の財産とかないんすかね?

残ってたら分けてくださいよ

俺、今、いっぱいいっぱいで

こいつら食わせていけなくて・・・」

 

澄香は思わずそのあたりに

刃物でもないかと探した

忠秀がまた、父親の前に立つと

財布から10万円出した

 

「母さんがなんかあった時に使いなさいって

くれたお金、これじゃダメ?」

 

彼は嬉しそうにそれをひっつかむと

若い奥さんと出て行った