そんなある日だった、彼女「小暮」と出会ったのは。
正確に言うと、出会っていたのかもしれないが、僕自身が彼女を見つけた日とでもいうのだろうか。
昼ごはんを食べるため、事務所からロビーに出て休憩所でのんびりジュースを飲んでいたときだった。
お年寄りばかりの輪の中に一人僕と変わらないか、少し下位の女の人がいることに気がついた。
「わかってるの?おじいちゃん」
「だから違うって!」
などと、少し興奮気味に何かを力説している。
更に少し聞き耳を立てみると、どうやら「昴」という星団のことについて語っているみたいだ。
「あれは、一つの星じゃないんだって!」
老人達はわかっているのかわかっていないのかうなづくだけである。
さらに彼女は続ける。
「双眼鏡でもみえるんだよ、今日だったら・・・8時からがいいかな」
きっと老人達は見ないだろう。
でも見てるとなんか、面白い。
仕事が始まったので、その後の彼女の講義を聞くことはできなかったがとりあえずその日帰って昴をみた。
もちろん、これが初めてというわけではないが、彼女が行ってた通り、8時きっかしに望遠鏡でみてみた。
「確かに、きれいだ」
彼女の言ったことが、思い出されてくる。
世界が広がった気がした。
ただ見ているより少しでも知ってから見る星座の世界が。
それから、何度か彼女を見かけることがあった。
そのたびに、少し耳を傾けてみる、老人達もまんざら嫌がってるようなわけでもないようだ。
そして、家に帰って講義があった星々を見る。
そんな生活が始まった。
といっても彼女も毎日来てるわけでもない、どうやら火曜日と土曜日の昼間にいることが多いようだ。
一日いることもあれば、すぐ帰っていくこともあるが、目的はプラネタリウムでも博物館でもなく例の講義らしい。
いささか来る場所を間違ってる気もするが、それをいってしまうと老人達の目的はただのおしゃべりなので、幾分ましに思える。
それに、こうしてここに講義のファンもちゃんといるのである。