賑やかなパーティの騒めきへと足を進めながら、キョーコの脳裏に浮かびあがったのは……かなり前に見た海外の学園もの映画のラストシーン、学年の終わりに開かれるフォーマルなパーティ
今からキョーコが乗り込もうとしているパーティも、まるでそれのようで……そして、決定的に違う。
それでも確かに、このパーティを最後にキョーコはラブミー部を卒業するのだ。キョーコにとっては……プロムのようなものかもしれない。
 とはいえ、キョーコはひとり道化のように踊るつもりなのだけれど……
 
 
 
一歩、パーティの会場へとキョーコが足を踏み入れるとその一身に数多の注目を集めた。
が、キョーコは微塵も揺らぐことなくそれを堂々と受け止める。当然だと、キョーコ自身でさえ考えたからだ。
なにせ、今キョーコが身に付けているものはドレスコードから逸脱したもので、それも嫌でも目に付くような色合い。
蓮がキョーコへと用意してくれたドレスは、とてもとても素敵だったけれど……キョーコが着ているのはキョーコの勝負服とも言えるかもしれないあのラブミー部のツナギ。
招待状があってさえ、それでもキョーコをひとめ見たフロントマンは訝しげであったし、このパーティの主催があの本格的過ぎるコスプレを日常とするラブモンスターでなければ不審者としてつまみ出されてしまっていただろう。
まるで異質なものを見るような白い目線とざわざわとした騒めきの中を怯む事も臆する事もなく、キョーコは綺麗なモデルウォークを披露するかのようにまっすぐに歩いて行く。
目に映るのは色取り取りに着飾った人びと。
蓮が贈ってくれたドレスを着ていれば……キョーコも少しくらいこの華やかな場に馴染めただろうか?
蓮からのドレスを受け取ったキョーコが考えたのは、それをキョーコへと贈る蓮の目的だった。
聡明なるあの先輩俳優がする事だ、何かしらの意図を含んだものに違いないだろうと……
『男が女に服くれてやんのはその服引ん剝いてセックスしてぇって意思表示』
呪わしき腐れ縁な男が口にしていた台詞がキョーコの記憶に蘇る……が、キョーコはなんの迷いもなく即座にその可能性を彼方へと放棄した。
それは、絶対にあり得ないと。
だって、蓮はキョーコへとはっきりと明言していたのだから。君にはなにもしない、とそう。
では、何故?
幸せになる権利はないのだと……あんなにも辛そうな表情をしていた蓮が、それでも想い続けた恋を告げるだと決めた、その日の夜にドレスアップさせたキョーコを招く意図とは……
華やかなパーティで変に浮いたりしないように、素うどんなりに着飾って多少は見れるようにしろという事なのか。
それとも、キョーコのラブミー部卒業を望む蓮は自分のその恋の成就をキョーコに目撃させる事で恋愛拒絶を改めさせようとでもしているのか……
もしかしたら、身の程も弁えずに蓮に恋心なんて抱いてしまったキョーコへ、釣り合いの取れるようなお相手でも用意してくれているのか……
冗談じゃないわ。
キョーコの唇にくすりと小さな笑みが浮かぶ。
波が引くように道を開けてくれる着飾った人びとの中を真っ直ぐに進むキョーコは、やがてパーティの主役たる男を見つけた。
今になってまで……蓮がその横に想い人をエスコートすることなくひとりでいる事に安心してしまうキョーコが自分で嫌になる。
日本人には着こなすのも難しい、なんて言われているブランドが彼の為にデザインしたスーツを着た蓮。本当に王子様みたいですねとキョーコは心で思う。
にこやかに微笑んでいた蓮はキョーコへと気付き、驚いたようにその切れ長の瞳をひと回り大きく見開いくのを見たのを最後に、キョーコはギュッと瞼を瞑り視界をふさいだ。
贈ったドレスでなく目に痛いラブミーピンクのツナギ姿でコスメマジックもないキョーコ。
蓮が「最上さん」とキョーコをそう呼ぼうとした言葉が声になるのを遮るようにキョーコは叫ぶように蓮へと告げた。
蓮の願いを叶え、ラブミー部を卒業する為に。



「敦賀さん!私、貴方のことが好きですっ!!これまでも、そしてこれから先私が地獄へと落ちてからも、きっとずっと……」



せっかく用意してもらったドレスも、どうせこんな無礼を働くキョーコからのプレゼントなど受け取りたくもないだろうからと、準備しておいた蓮への誕生日プレゼントも置いてきたキョーコ。
こんなコスプレじみたふざけた色のツナギでパーティに乗り込んで、祝いの言葉もないまんまいきなり想いを告げるなんて……それもこれからもずっと執念深く想い続けると宣言してのけるだなんて、蓮の顔に泥を塗るも同然だ。
けれど……キョーコがラブミー部を卒業する為には……
キョーコが愛されたいと望む相手など、蓮ただひとりだけなのだから。
蓮がキョーコへ蓮以外の誰かとのラブミー部卒業を望んだとて、これから先にも不可能なのだと……叩き付けるしかない。
それが、キョーコの出したラブミー部卒業の為の答え。
蓮はこんなキョーコを許さないかもしれない。




謝罪の言葉も受け入れてもらえないだろう。蓮にどれほど失望された目でみられようとも……
きっと、これが誰かのものになる前にキョーコと向き合ってくれる最後の蓮なのだ。
せめて、それを私は記憶に焼き付けていよう。
そう心を決め……キョーコは閉ざしていた瞼を開ける。
そこに、キョーコが見たのは……キョーコが先ほど目を瞑る前と寸分違わぬ同じ表情のままで……






けれど、頬を真っ赤に染めた蓮がいたのだった。





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おうちデート重ねてなんだかいい感じ?って、いろいろあれやこれやセッティングして告るっ!って覚悟もして……な、口説き落とす気で待ち受けてたのに、ラブミーピンクに不意打ち突かれちゃって、硬直&赤面蓮くん……ってのが書きたかっただけらしいっすよ?


この先、顔も見たくなくなるだろうから速攻追い出されるつもり満々☆なキョコちゃんを、我に返った拗れた系男子がどうやって捕獲するかは……皆さまの妄想の中に☆

(๑•̀ㅂ•́)و✧

 



蓮さんハピバー!!

キャッ゚+。:.゚ヽ(*´∀`)ノ゚.:。+゚キャッ!




*嬉しいお知らせな追記*
言ってみるものですよね!!
なーんと、猫木めのこの中途半端で放置ぷれぃする気満々だったこのお話に……
あのお素敵サイト「スウィート・ムーンのブログ」の山崎由布子さまが続きを書いてくださいましたよ!!
ひゃっほいっ!!
♪───O(≧∇≦)O────♪

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↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。

 


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