猫木の変な挑戦『いろんな敦賀さんを書いてみよう。』
困惑混沌の朝。reverseから派生する番外編的な続きのひとつ敵前逃亡の彼。の続きとなっております。


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「きゃーーー!!『敦賀蓮』!『敦賀蓮』よっ!!」



唐突に上がった黄色い悲鳴。フルネームを連呼される事も、まるで珍獣でも発見したみたいな音色の声にも慣れていた筈だけど………まさか、その声が彼女の声だなんて。
個人で移動出来る足を慰謝料の足しに奪われた身の上、木を隠すなら森と、比較的人口密度の高い雑踏を彷徨う。
目立つ専属ブランドの服を目に付いた量販店で適当に見繕ったいつものイメージから外れた物に着替えて、髪の色は戻せなかったけどせめてもとぼさぼさに乱して顔に垂らしてみたり。
そうやって、貼り付けていた商品イメージの笑顔を剥がし、だらんとだらし無い排他的な雰囲気を出してみせれば、誰も俺に気付かない。
その筈だったのに…………見事な声量の声とまっすぐ微塵の迷いも無く、ぴたりと俺を指差す指先。
一斉に集まるたくさんの眼差しとジリジリと取り囲むように近付いて来る迫るような気配。
このまま、その場に留まる事の危機にぎょっとして固まっていた身を翻して走り出した足。
高らかに追い詰める彼女の号令の元、俺を取り囲む人波をすり抜け躱し走りながら………自分だって『京子』の癖に、なんて思ってしまっていた。






もう君への想いが降り積もって煮詰まってドロドロになっていたあの夜。
触れてしまった肌に、もう歯止めもタガも理性も何もかも無くなってしまって溺れるように貪り飢えを満たした。
朝、腕に抱き寄せた君の頬に残る涙の跡に……取り返しのつかない現実を突きつけられた。
「ごめん…ごめんなさい………最上さん……最上さん………………キョーコ…」
蛮行の限りを尽くした後で、今更に謝ってみせる震えた声と未練がましく名前を呼ぶ自分に吐き気がした。
汗で額に張り付いた前髪、疲労で伏せられたままの長い睫毛。
その瞼が開き、紅茶色のあの愛しい瞳に自分が映る事がどうしようもなく………ただ、恐ろしかったんだ。



なんでもする……君の望む償いを………俺の持てるもの全てを差し出そう。
だから、どうか……



こんな事でさえあの人を頼り任せる自分に心底嫌気がするけど、きっと愛の伝道師を名乗るあの人なら彼女を護り、彼女の望みを……それが、俺の破滅であろうと毛ほどの容赦もなく冷徹に実行してくれるだろう。






どこをどう走ったのか………
人の目を振り切ったかと思う度に上がる彼女の声。
群がるような人の合間に覗き見えたのは、キャップに大きなプラスチックフレームの伊達眼鏡、ダボっと大きなシャツにスポーティなハーフパンツに着た、マウンテンバイクに跨る彼女。
上着を脱ぎ捨てたりなんて小細工の一切の通用しない精密な索敵能力、彼女と自転車と言うその人間離れしたような機動力。
いっその事タクシーかどこかの建物にでも逃げ込むかなんて考えが過ぎった視界の隅に、スロープ手摺りの上なんて危険なところを走行していた彼女がふらつくようにタイヤを滑らせるのが見えた。
滑るタイヤの勢いでキャップが飛ばされマウンテンバイクから投げ出された細い身体、考えるより先に段差を蹴り走る足と彼女へと必死に伸ばした腕。
その瞬間、彼女の描いた計画通りにまんまと追い込まれ、踊らされていた自分を理解した。
彼女が、ニヤリと笑っていたから。
彼女の顔から外れて落ちた伊達眼鏡がカツンと軽い音をさせてアスファルトを滑っていく。
受け止めた衝撃のまま後ろに腰を落としてしまった俺に跨った彼女が襟首を掴んで言ったんだ。
「甘いですねぇ……私から逃げ切れるとでも思ってたんですか?」
パーツと骨と対比に筋肉の付き方までコツコツと収集した敦賀教信者の敦賀百万石データを甘く見たものですね、なんて勝ち誇るように言ってのけている………そんな予想外過ぎる対応の君を呆然と見上げてると、グイッと襟首を掴み寄せられた。




「何が、君に厭われて存在を抹消されたら、もう生きていけない……ですか!いいですかっ!?私が貴方を嫌うなんてこと、ありえないんです!!」




まったく、そんな事でお仕事投げ出して逃げ出すなんて…とブチブチと怒りのままにこぼし続けている君。
あんなに恐れた君の大きな瞳にマヌケた表情を晒した俺がまっすぐに映っていた。
「………本当に?あんなことしたのに?」
逃げ出した弱い俺を見つけて追いかけて捕まえてくれてた君。
恐る恐る縋るような情けない声。
「ありえませんからっ!!」
胸を張るみたいに宣言してくれる君に、致命的に強く、心臓を掴まれた気がした。





上がる悲鳴と騒めきに、たくさんのシャッター音。
ぐるっと取り囲むひとの山と向けられているスマホや携帯のカメラレンズの数々。
今更に、びくぅぅっと驚いたみたいに跳ねて仰け反るあたたかなぬくもりを抱き寄せ、泣いてしまいそうな顔をぎゅぅと埋めてやった。
あぁ、もう……この見敵必殺な君から逃げることも離れることも無理だと思い知ったよ。






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逃亡者と探索者、ほんとに捕まったのはどっちなんでしょうね?
この後は、たぶん「本当に嫌いにならないでいてくれる?俺、最上さんが好き過ぎて……きっとまたあんなことするよ?」的に、キョーコさんを口説くんじゃないっすかね?


↓拍手コメにて、SAILEE様からいただきましたネタ

逃亡する彼では全然逃亡していなかったので抹殺されるのが怖くて逃げ回る彼ついには仕事にも支障が出るようになってキョーコさん大爆発。人環視の中、自爆するキョーコさんと棚ぼた的な告白をフルに利用する蓮さん。」

を、かなーり捻じ曲げまくった感のあるものとなってしまいました。
SAILEE様、すいませーん。(´Д` )
楽しいネタをありがとうございましたー☆
んでは、気が付けばもうそこに三桁の数字が見えそうなこのシリーズ、ネタもなくなりましたので、新しいネタが飛び込んで来るか猫木の脳に浮かぶかするまで、また止まりますわよ☆
( ´ ▽ ` )ノ



タイトルの「見敵必殺」を「サーチアンドデストロイ」と読んで某鉄の女なおぜう様が浮かんだ方は、猫木と友だちになりましょう♡←
(*ΦωΦ)



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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