ウルタールの路地裏から。 -67ページ目

みょん×ソード ep.Ⅳ 舞うは機妖跋扈⑥

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 右へ行くと見せかけて左、また、その逆。橙は竹の生み出す死角をうまく使って移動し、罪袋を翻弄する。
 小柄で小回りの利く橙の素早さに加え、この竹林である。大柄な罪袋たちは密生する竹に身をとられ、少しずつ離されていく。
「──!」
 罪袋の片方、がっしりとした大柄な方がしびれを切らしたのか、着ていた服の一部、ケープのようなものを毟り取ると、勢いよく振り回した。
 橙は一瞬、罪袋がやけを起こしたのかと思ったが、それは違っていた。
 ケープは一瞬にして巨大な戦斧と化し、竹を切断していく。
 それだけではない。
 罪袋は指を鳴らすと、燐光を纏い始めた戦斧を天にかざした。
 橙はその挙動に見覚えがあった。
 まさか。
 先ほど目にした〈ダン〉のようなマシン群が頭をよぎる。
 そして、その悪い予感は的中した。
 天空から飛来した巨大な戦斧が、罪袋の遙か後方の大地に突き刺さった。
 そしてそれを見たもう一人の罪袋も、身に着けていた指輪をレイピアに変化させ、胸の前に持ってくると、そのまま天にかざした。
 飛来する巨大なレイピアが戦斧の隣に突き刺さる。
 跳躍し、各々の得物を模したヨロイに乗り込む罪袋。
『ウェイクアップ・〈ディアブロ〉』
 戦斧が、斧を握りしめた重装備の鎧武者に変形する。
『ウェイクアップ・〈メッツァ〉』
 レイピアが、細身の西洋甲冑のような形に変形する。
 二機とも色は白銀。
 その意匠も併せて驚くほどダンによく似ていたが、橙の目には全くの別物、まがまがしいニセモノに写っていた。
 竹林をなぎ倒して迫る二機の巨体。
 巨大な機械腕が橙を捕らえようと迫る。
 しかし橙は怯まなかった。
 小さな身体でヨロイを睨み付ける。
「〈ダン〉のニセモノなんかに、捕まらない!」
 そう言って自分を鼓舞し、二機の間、遠くに見える〈サウダーデ〉へ向かって飛翔しようとした。
そのときだった。


「ちぇぇぇぇすっ!」
 叫び声とともに、二機と橙の間に剣閃が割って入る。
 橙を護るように立ちはだかる巨体。

 それは──


「〈ダン〉……妖夢さん!」




 
 前もこう言うことがあったか。
 〈ダン〉のコクピットで妖夢は軽いデジャヴを覚えていた。
 あれは確か龍の幻影と戦ったとき。あのときも橙に助けられ……こうして駆けつけていた。
 と、そこで妖夢は洞窟でのことを思い出して、少し赤くなった。しかし、すぐに集中を取り戻す。
「ウェイクアップ・〈ダン〉」
 妖夢のつぶやきに応じて、コクピットの流体が光度を増す。
 暗い青から、明るい青。そして、まばゆく輝く白に。
 床に突き刺した長刀・楼観剣を握り込む。
 前方のディスプレイに映り込むのは、各々の武器を構える2体のヨロイの姿。コンピュータが機体名を判別し、〈ディアブロ・オブ・マンディ〉、〈メッツァ・オブ・チューズディ〉の名前が映し出される。
 名前からして、敵はダンの兄弟機。
 それも2機が相手だ。
 前ならば苦戦は免れないレベルの相手だろう。
 しかし、今ならば。
 妖夢は口の端に笑みを浮かべると、短刀・白楼剣を引き抜き、楼観剣と同じく床に突き刺す。
 より強固になる〈ダン〉との接続。
 妖夢の全身にみなぎる霊力が、刀を通じてダンにさらなる力を供給していく。過剰な霊力が突き刺さった二刀の周囲に、時折電流のような光を伴って現れていた。
 妖夢と〈ダン〉は今や霊的、生体的に接続され、ほぼ一体となっていた。
 〈ダン〉の手足は妖夢の手足、〈ダン〉の瞳は妖夢の瞳。
(……いける。これなら、何の淀みもなく刀が振るえる!!)
 諸手で長刀を構える〈ダン〉。
 その気迫が〈ディアブロ〉と〈メッツァ〉を圧倒する。
「魂魄妖夢……参ります!!」


 〈ダン〉が突撃を開始する。
 前進し、斧を振りかぶって迎え打つ〈ディアブロ〉。
 ぶつかりあう二機のヨロイ。
 勝負は一瞬だった。
 振り下ろされる斧よりも早く、〈ダン〉の長刀が〈ディアブロ〉の重要な動力機関──人間で言えば首の頸動脈にあたる部分──を切断していた。
 斧を振り上げた体制のまま、首より大量の流体を吹き出して崩れ落ちる〈ディアブロ〉。
『──』
 それを見た〈メッツァ〉は素早く距離を取った。
 そして、胸部に搭載された砲口から高出力のビームを〈ダン〉に向かって連射する。
 巻き起こる爆発、爆炎。 
 罪袋は〈メッツァ〉の中で勝利を確信する。
 ヨロイといえどただでは済まない威力のビーム。これならばダンとて……。
 そう思った瞬間、〈メッツァ〉の左肩に大きな衝撃が走る。
「!!」
 罪袋が反射的に損傷部を確認すると、そこには〈ダン〉の短刀が突き刺さっていた。
「──!!」
 さらに爆炎の向こうから飛び出して来たのは、無傷の〈ダン〉。
 その機体は薄く輝く光の壁に覆われていた。
 〈メッツァ〉が再びビーム攻撃を開始するが、意にも介さず。
 〈ダン〉はその全てを光の壁で弾きながら一直線に間合いを詰めていく。
 止まらぬ進撃。
 〈メッツァ〉は射撃を止めると、突撃する〈ダン〉に右手のレイピアを繰り出した。
 迫る鋭い剣閃。
 しかし、〈ダン〉はそれを両手の甲で挟み込むように受け止めると、力任せにへし折る。
 そして長刀を振りかぶり、右肩に一撃。
 刀身が〈メッツァ〉のGE-R流体硬化装甲を砕き、その下の流体が流れるパイプに食い込み、斬り裂いていく。
「ハァァァァッ!」
 妖夢の気合とともに、〈ダン〉の長刀は〈メッツァ〉の右肩から左脇腹──いわゆる逆袈裟の軌道──に抜けた。
 機体胸部から吹き出る大量の流体が竹林の竹を、地面を濡らす中に〈メッツア〉が沈む。
「我が剣に斬れぬものなど、殆ど無い!」
 あっと言う間に二機のヨロイを下し、お決まりの台詞を叫ぶ妖夢。 
 今や彼女の瞳は、少しの曇りもなく澄み渡っていた。
 
 ちりん


 軽く透き通った金属音が、コクピットに響きわたる。




 〈サウダーデ〉。
 それは南蛮の言葉で、『孤独』『哀愁』の意味。
 藍はコクピットの中で、己の乗機の名に一抹の皮肉を感じ、自嘲の笑みを浮かべる。
 大事にしていた橙から逃げられ、今は独り任務をこなす自分。それも、まがい物のヨロイと手駒をつれて。
「ふ……」
 なんと滑稽な。
 だが──
 藍の頭に浮かぶのは橙の姿。
 素直で、何事にも一生懸命で、愛らしい。
 それこそ目に入れても痛くない、自分の式神。
 あの子のためならば。

 今後過酷を極めるであろう異変の中で、あの子を守るためならば。
 このような無様も甘んじてさらそう、喜んで修羅となろう。
 藍は前方の戦場に目をやった。
 そこでは大柄で黒色の合体マシン──〈ダンクーガ〉が、配下の罪袋が操るヨロイと戦いを繰り広げている。
 〈ダンクーガ〉は搭乗員が足りないらしく本来の出力は出せていないようだったが、それにも関わらず既に〈シン〉と〈セン〉の二機を葬っていた。
 しかしその攻撃手段は質量差を生かした鉄拳のみで、藍が紫より伝え聞いていた飛行ユニット、砲撃兵装、接近専用の武装は何一つとして確認できなかった。
 搭載されているがあえて隠しているのか、そもそも『まだ』搭載されていないのか。
 おそらく後者であろう。
 藍がそう判断した理由。それは一つ一つは大きくないものの、多対一の戦況で突撃と格闘戦を挑み続けた結果、〈ダンクーガ〉の全身にいくつもの損傷が生じていたからだ。
 あの無鉄砲な不死人はともかく、賢人と名高いハクタクがそのような無謀な戦いを許す筈がない。
 現に〈ダンクーガ〉は、交戦中の〈ダリア〉が繰り出す変幻自在の動きに手間取っている様子だった。
(データは取った。これならば罪袋に任せてもよかろう)
 藍は〈サウダーデ〉の頭を巡らした。
 彼女にとって、この任務の最終目的は〈ダンクーガ〉ではない。
 橙。
 彼女を連れ戻すことこそが最大の目的なのである。
 そろそろ、橙を連れ戻すために別行動させていた罪袋二人が報告をしてくるはず……。
 はやる心を抑えながら瞳を巡らせる藍。
「!」
 見開かれるその眼がとらえたもの、
 それは〈ディアブロ〉と〈メッツァ〉を難なく下す〈ダン〉の姿だった。
「……そうか」
 冷めた声で呟く藍。
 しかし、操縦幹代わりの銃剣を握る手にはすさまじい力がこもっていた。
「お前が邪魔していたのだな、妖夢」
 〈サウダーデ〉の羽がすさまじい光を放ち、飛翔を開始する。目指すは当然、眼前のヨロイ。
「私と、橙の間を」
 声に滲み出す殺意。
 すさまじい加速の中で藍は〈サウダーデ〉の銃剣をダンに向ける。
「橙を誑かした罪は重いぞ、魂魄妖夢!!」



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