ウルタールの路地裏から。 -66ページ目

みょん×ソード ep.Ⅳ 舞うは機妖跋扈⑦

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「藍さん!?」
 繰り出される〈サウダーデ〉の突きを〈ダン〉の長刀で受け止めながら、妖夢は驚きの声を上げる。
「橙は返してもらう!!」
 藍の〈サウダーデ〉は弾かれるように距離をとると、銃剣から光弾を連射した。
「な……!!」
 光の壁で光弾を防ぐ〈ダン〉。
 藍はその様子に感心したような表情を浮かべる。
「ほう、電磁シールドを会得していたか。紫様に聞いていたよりも腕を上げたと見える。だが!」
 頭に血が上っていても、藍は課せられた本来の任務を忘れているわけではなかった。
 しかし、
「私は…負けられんのだ!」
 その瞳は冷静さを完全に欠いていた。
 真上に飛び上がり、すぐに急降下突撃を行う〈サウダーデ〉。
「話を聞いてください!」
 〈ダン〉はその真っ向からの斬撃を受け止める。
「聞く耳持たん! お前を倒し橙を連れ戻す!あの子は私が守る!」
 続けて繰り出される〈サウダーデ〉の斬撃。
 それを妖夢の〈ダン〉は確実に裁いていく。

 そして、連撃のわずかな隙をねらい顔面に拳の一撃。
 攻勢に出ていた〈サウダーデ〉が初めて揺らいだ。
「何……!」
 驚愕する藍。
 接近戦とはいえ、マシンの操縦に一日の長がある自分が後れを取るとは。
「妖夢、お前は……」
 藍は〈ダン〉を睨みつける。
 視線の先、〈ダン〉の瞳が紅に輝いていた。




「橙」
 藍を後目に、妖夢は橙に話しかける。
 拡大された映像に映る橙。その瞳は眼前の戦いをしっかりと見つめていた。
『……はい』
 センサーがその返事を拾う。
「少しだけ、藍さんと戦います」
 その言葉に橙は少しだけ逡巡を見せるが、すぐに心を決めて〈ダン〉を見つめ返す。
『……はい、やっちゃってください! でも……』
「わかってます。必ず、どちらも無事に終わらせます!」
 再びコクピットに霊力のスパークが走る。
 前方には銃剣を向ける〈サウダーデ〉。
 対し、〈ダン〉も両手に二刀を構える。




「ったぁ!」
 妹紅の叫びとともに繰り出された〈ダンクーガ〉の正拳が、〈ダリア〉の頭部を打ち砕く。
「やったか!?」
 流体を吹き出しながら崩れ落ちる〈ダリア〉の姿を確認すると、慧音は周囲に視線を移した。
 まだあの金色のマシンが残っているためだ。
「……ん?」
 慧音の視線がある方向で止まる。
「どうした慧音? 次は……」
「いや、あれを見ろ、妹紅」
 指し示す慧音の瞳に少なからず喜びの色が浮かぶ。
 そこには武器を構えて対峙する〈ダン〉と〈サウダーデ〉の姿があった。
「妖夢、立ち直ったみたいだな」
「あ、ああ」
 少し恥ずかしそうに言う妹紅。
「どうだ? ああいう生徒の成長を見るのも悪くないだろう?」
「……し、知るか!」
 口ではそういう妹紅であったが、背けた顔には、薄い笑みが浮かんでいた。




 明けの明星が輝き、次第に明るさを取り戻す空。
 闇に包まれていた竹林に光が差す。
 その澄みわたる空気の中で、2体のヨロイは対峙していた。
「まさかこれほどとはな……正直、見くびっていたよ。 何がそれほどにお前を強くした?」
 藍の問いかけに、妖夢は不適に返す。
「主人に……師に……友に、そして己に全力で忠を尽くし、その信に報いること。それが自分の剣の道だと再確認しただけです」
「………よかろう。ならば私も八雲の眷属として、最強の妖獣として。その誇りに掛けてお前を見極めるとしよう!!」
 互いに武器を構える二機。
「いざ」
 銃剣を握り込む〈サウダーデ〉。
「尋常に」
 二刀を前方に突き出す〈ダン〉。
 そして──
「「勝負!!」」
 走り出す二機。
 まずは真っ向勝負。
 振り下ろされる〈サウダーデ〉の銃剣を〈ダン〉は二刀の交差で受け止める。
 しかし、その銃口はダンの右肩をとらえていた。
「この距離ならば、電磁シールドといえど!!」
 連続発射される光弾がダンの右肩外装を吹き飛ばす。
「くっ!」
 揺らぐ〈ダン〉。しかし藍は攻撃の手をゆるめない。〈サウダーデ〉を真上に飛翔させ、地上の〈ダン〉に銃剣を向ける。
「もらったぞ妖夢!!」
 銃剣から放たれる大量の光弾。
「まだです!!」 
 対し、妖夢は〈ダン〉を大剣に変形させ、飛び上がる。
「何!?」
 切っ先を向けたまま頭上のサウダーデにまっすぐ向かっていく〈ダン〉。

 飛来する剣は人型よりも正面の表面積が小さく、更にその切っ先に電磁シールドを集中展開させているため、加速する巨大な剣は射撃をものともせずに〈サウダーデ〉との間合いを詰めていく。
「くっ……自動帰還システムをこのように使うとは。機転も身につけたか!」
 たまらず回避行動をとる〈サウダーデ〉。
 だが、間に合わない。
「がぁっ!」
 超高速、大質量の一撃が〈サウダーデ〉を弾きとばす。
 そして、空中で再び人型に変形する〈ダン〉。
「たあぁぁぁっ!」
 二刀を振り上げ、バランスを崩した〈サウダーデ〉に振り下ろす。
 しかし、
「勝ったと思うな!!」
 その攻撃は銃剣に阻まれる。
 もみ合いもつれ合ったまま落下する二機。
 この密着した間合いでは互いに武器を使用することもできない。
 〈ダン〉が、短刀を握ったままの左拳を振りあげる。
「橙の気持ちを……ちゃんと考えてあげて下さい!!あの子は、貴女のために……!」
 対して、〈サウダーデ〉も空いた左拳を振りかぶる。
「知ったような口をきくな!! 主人として私があの子のためにどれほど苦心してきたか……お前には分からんだろう!!」


「「……ああもぅ!!この、分からず屋!!」」


 同時に繰り出される拳が、互いの顔にたたき込まれる。
 互いに反対方向に吹き飛び、地面に激突する二機。
 武器を杖に立ち上がり、再び間合いを開けて対峙する。
 満身創痍のにらみ合い。
 先に動いたのは藍だった。
「これで……終わりにするぞ!」 
 〈サウダーデ〉は全体のダメージは大きいものの、推進機関の損傷は薄かった。
 故に、全開の加速はすさまじい突進力を生む。
「はぁ、はぁ……」
 一方、妖夢は肩で息をしながらも、〈ダン〉に二刀を構えさせる。
 あっと言う間に詰まる距離。
 勢いのままに繰り出される、銃剣の一突きが〈ダン〉に迫り──。
「……ッ!! 今だ!!」
 見開かれる妖夢の瞳。
 〈ダン〉のコクピットで、彼女は懐から一枚のスペルカードを取り出す。
 コクピットに満ち、溢れ出す桜色の光。
 妖夢は高らかに、その名を宣言した。
「人鬼『未来永劫斬』!!」
 
 
「な……」
 勝負は、この瞬間にて決した。


 繰り出された神速は一瞬にして〈サウダーデ〉の両腕と推進機関を切断。
 戦闘能力を失った〈サウダーデ〉はそのまま地に倒れ伏した。
 
 ちりん


 〈ダン〉のコクピットに、軽妙な金属音が響き渡る。

 その音はさわやかな朝の風に混じって、流れていった。
 




(私は……無事なのか? そうか、〈ダン〉を除くオリジナル……〈サウダーデ〉もまた紫様の複製品。不完全なインターフェイスがフィードバックを弱めたというわけか)
 僅かに痛む頭を押さえながら、藍は身を起こす。
 周囲を見回すと、ここは竹林。
 どうやら気を失い、〈サウダーデ〉から引きずり出されたようだった。
 ここで、藍は腹部にかかる重みに気づく。
「……橙」
 声をかけると、橙は跳ね起きるように顔を上げる
「藍さま!! 大丈夫だったんですね……よかったぁ」
 言いながら、目のはしに浮かぶ涙を拭う橙。
「傷はなかったけど、目が覚めないからどうしようって……慧音さんと妹紅さんも手伝ってくれて、それで」
「そうか、すまなかった…………む、あの二人も?」
 ここまで聞いて、藍は再び周囲を見回す。
 気づけば橙の直ぐ側に慧音。そこから少し離れた場所に妹紅が立っていた。
 慧音がしゃがみ込み、藍の顔をのぞき込む。
「気づいたようだな。大事なくて何よりだ」
 言って、藍の肩に両手をおく。
「そして、起きて早々悪いのだが……」
 直後の慧音がとった行動。
 それには橙も、妹紅も、そして藍も目をむいた。
 頭を後ろに振りかぶり、藍に頭突きの一撃。
 ごちんという重く鈍い音が響く。
 その痛みを知っているだけに、妹紅は自分がやられたわけでもないのに思わず顔をしかめてしまっていた。
 慧音の頭突きはそれほどまでに痛いのだ。
「……ッ!?」
 キツイ一撃をお見舞いされた藍は、頭を押さえたまま、痛みと衝撃に何が起こったか分からないといった様子で目をしばたたかせる。
 しかし、慧音はまだ止まらない。間もなくして怒号が響く。
「あの体たらく、大人として何事だ!! 子供に対して責任を持たねばならないのはよく分かる。しかし、当の本人が心を乱して子供に何を示せるというのだ!!」
 まくしたてる慧音の表情は真剣そのもの。
 あまりの剣幕に妹紅は後ずさり、橙も驚いていたが、藍はそれを正面から受け止めていた。
 頭も冷えたのだろう。
 身を正すと殊勝な態度で頭を下げる。
「本当に、申し訳ない」
 慧音はその言葉と姿勢に心からの反省を感じ取ったのか、「うむ」と短く言うと、それ以上追求せずに立ち上がる。
「……私からは以上だ。後は二人で解決するのだな」
 言って踵を返し、慧音は妹紅の方に向かって歩き出す。
 それに応じて、妹紅も竹林の中に消えていく。
 遠ざかるその背中を見ながら、藍はまた一つ気づいた。
 肝心の一人がいないことに。
「そうだ、妖夢は……!?」
 その問いには橙が答える。
「妖夢さんは、白玉楼に向かいました」
「白玉楼……?」
 いぶかしむ藍に、橙は頷いて返す。
「はい、藍さまが寝てる間に前鬼と後鬼が使いに来たんです」
「あいつらが?」
 前鬼と後鬼。
 それは紫の使役する式のうちでも低級な鳥の式で、斥候や使いの役目を持つものである。
 それが何故……
「……まさか、紫様に何か?」
「分かりません。ただ、私じゃなくて妖夢さんに二三言づてをしたと思ったら、すぐに飛んで行ってしまいました。そして、妖夢さんも深刻な顔して、行き先だけ告げて……」
「………」
 紫様の使い、白玉楼、緊急事態。
 まだはっきりしていなかった藍の頭にキーワードが並べられていく。
 しだいに覚醒していく頭脳。
 それは最悪の答えを導き出そうとしていた。
 藍の頭に、最悪の想像がよぎる。
「まさか……」
「……? 何か心当たりがあるんですか?」
「……」
 黙り込む藍。
 その表情はひどくこわばっていた。
 これは橙に言うべきではない。飲み込まねばならない。
 言えばこの子はついてくるだろう、間違いなく。 
 しかし、それだけは避けねばならない。
 この事態はあまりに危険すぎるのだ。
「そうだ、あと前鬼の羽に、これが……」
 思い出したように橙が藍に差し出したもの。
 それは藍の想像を確信へと変えた。




 それは小さな、小さな花びら。
 たった一枚の花びら。
 しかし、桜色をしたその花びらはとある最悪の事態を指し示していた。




 それは即ち、季節外れの桜の開花。
 それも、あの恐るべき西行妖の開花であった。






ep.Ⅳ 終




次回『みょん×ソード』the final「白楼剣は明日に舞う」



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