第三百話 無題(彼へのオマージュ) | ねこバナ。

第三百話 無題(彼へのオマージュ)

【一覧1】 【一覧2】 【続き物】 【御休処】 【番外】

-------------------------------

あと二時間で日が昇るって
そんな時間に
あいつはやっと帰って来た

俺は一応
あいつに文句を言ってやる
こんなに待たせやがって
一体どういう了見だ

あいつは俺の頭を
がしがしと擦るように撫でて
畳にごろんと横になる

そうじゃねえだろ
飯だ飯だよ
俺はさんざん抗議する
なのにあいつは

「チョットハヤスマセロヨウ」

なんて勝手なことを言いやがる

俺が耳をべろべろ舐めたので
あいつはようやく
重い腰を上げた

安物のキャットフード
ざらざらと皿に流し込む
こんなんで俺が満足すると
あいつは本気で思っているのか

ほうら見ろ
あいつは自分だけ
冷えたごはんにたっぷりと
鰹節をかけて食おうとしてる

そうはさせるか
俺はあいつの肩によじ登り
寄越せ寄越せと怒鳴ってやった

「ホラ オマエノブン」

そうしたら
ちんまり小さな皿の上
こんもり盛られた鰹節
すんなり出てきたじゃねえか

なんだい拍子抜けするな
俺は目を白黒させて
あいつの顔を見ていたら

「キョウハ タンジョウビ ダッタヨナ」

そんなこと言って
俺の頭を撫でやがる

「コンナ プレゼントデ ゴメンナ」

よく判らねえけど
俺はともかくも
皿の鰹節にがっついた

腹が減っていたあいつは
もさもさと冷や飯を食って
腹が減っていた俺は
がつがつと鰹節を食って

「ゲフウ」

同時にでっかいげっぷを吐いた

そうしてあいつは

「クッタ クッタ」

ごろんとその場に横になり
座布団を枕代わりにして
一分も経たないうちに
でかいいびきをかき始めた

歯も磨かずに
顔も洗わずに
だらしのないやつだ

俺はあいつの口のまわりを
べろべろと舐めてやる
あいつは口を袖で拭って
ごろんと向こうへ転がった

全く世話が焼ける
駄目な男だなこいつは
俺はそんなことを考えて
座布団の半分を占領して
とぐろを巻いた

頭の脂の臭い
汗の臭い

餓鬼の頃からずっと
この臭いにまみれて

汚ねぇ部屋で
この駄目な男と

生きている

文句はそれなりにあるんだが
これはこれで
悪くねえ

なあそうだろう

俺はあいつにそう言ってみたが
でかいいびきに
俺の声は
かき消されちまった

しらじらと夜が明ける
多分こいつは
昼まで寝る積もりでいるだろう

しょうがねえ
付き合ってやるさ
俺はひとつ
大きなあくびをして

あいつの臭い髪の毛に
顔を埋めて

もやもやした温かさに
包まれて

いつもより長い
居眠りをした




おしまい







いつも読んでくだすって、ありがとうございます




↓↓↓やっとだな!と思ったらポチっと☆よろしくです↓↓↓

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ
「にほんブログ村」参加中
 ねこバナ。-nekobana_rank
「人気ブログランキング」参加中





$ねこバナ。
↑↑↑震災・復興・支援関連情報はこちら↑↑↑


アンケート企画「この『ねこバナ。』が、キニナル!第三弾」開催中
投票は、☆こちら☆


$ねこバナ。-海野ことり作『ねこっとび』
ぶん:佳(Kei)/え:海野ことり 絵本『ねこっとび』
ブクログのパブーにてチャリティ配信中!