ここ一ヶ月ほど、自分の体、人生、生活についてよく考えた。

昨年から猛烈な頭痛がつづき、物忘れをするようになった。

朝ご飯を食べるのを忘れて出かけ、出先でグゥーとお腹が鳴ることが

珍しくなかった。

 

毎日、夜明けとともにニャンズの散歩に出かけ、

帰ってからニャンズのご飯。

洗濯を2回しながら家族の朝ご飯を作る。

駅まで家族を車で送り、洗濯物を干し、

庭に出たいニャーと言われたら、リードをつけて庭に出し、

それが3匹ともだったり、家に入りたいと言われたら家に入れるという毎日である。

 

毎朝、コーヒーを入れるが、座って熱いコーヒーを飲めるわけでもない。

家事の合間に取りあえず、冷めた液体を胃に入れるという感じ。

本屋さんでグゥーと鳴ったときは、

ラーメン屋さんやお蕎麦屋さんに行くこともできるが、

図書館では調べ物を中断することになる。

この前は映画を見ているときに鳴ってしまって、恥ずかしかった。

お客さんが少なくて良かったが、映画に集中できなかった。

 

父がむかし、脳出血で手術したことがあり、体質的に遺伝しているかもと

心配になったため、父が定期検診を受けている脳外科で検査を受けることにした。

医師に相談したところ、MRIとレントゲンとMRA検査を勧められた。

 

頭痛がひどかったので、脳の血管に小さな出血がいくつもあるのではと、

覚悟していたが、結果は「100%きれいです」とのことで、

心配は消えた。

ただ、頸椎の軟骨がすり減っていることで頭痛が起きている可能性があるとの

ことだった。

 

じつは、診察を受ける前の問診で、気になることがあった。

認知症の簡単な検査だったが、100から7を引いていく計算がうまくできなかったのだ。

もともと暗算は苦手だが、頭の中で想像することができず、焦り、不安になり、

泣きたい気持になった。

ほかに患者さんも大勢いるのに、看護師さんたちも忙しいのに、

こんな簡単な計算もできず、手間をかけて申し訳ないという思いで

いっぱいだった。

 

看護師さんは言う。「だいぶ、疲れているみたいですね」

 

わたし、疲れている?

通信制大学で勉強しているだけなのに、主婦が疲れている?

 

たしかに毎朝3時半起き。

早く寝ても、3ニャンに1~2時間おきに起こされる。

カリカリを多めにお皿に入れてから寝ているのに、

顔を引っ掻かれ、2匹には体の上に乗られたり、足の間に寝られたり、

寝返りも容易じゃない。

疲れが溜っているということか。

 

集中してものを考えられないというのは、ここ何年もの悩みだった。

いつも途中で遮られる。

外に出して~、カリカリちょうだい! よそのネコが庭に来てる、フーッ!!

カメの水槽は定期的に水を替え、ネコはリードを付け、1匹ずつ散歩に連れていかなければならない。

以前、2匹同時に連れて出たら、それぞれ行きたい方向が逆だったため、てんやわんやの大騒ぎになったことがあった。

 

どうしたらやりたいことに集中できるだろう。

20代の頃、遺跡の発掘やライターの仕事をしていたことがある。

これは子供のころからの夢だった。

女性は結婚したら家に入るものと当時は考えていたので、

せめて結婚するまでは好きな仕事をしたいと思っていた。

子供が生まれたら、育児に専念するのが女性の人生だと思っていたので、

考古学や歴史学については趣味の範囲で、本を読む程度で

我慢するべきだと。

 

50歳を過ぎ、時間にゆとりができたものの、思いもよらなかった後遺症が出てきた。

好奇心が育たない。やろうと思っても長続きしない。

何か調べたところで、主婦の趣味。

「そんなことしなくていい。子供を育てるのが役目」

「子供から手を離しても、絶対に眼を離してはダメ」

と先輩主婦に言われたこともあった。

 

そもそも、勉強して覚えようと思っても覚えられないのだ。

10代の頃、百人一首や万葉集、歴代天皇など、覚えるのが楽しかったのに、

今はどうしてこうも脳が働かないのか。

 

いろいろ脳についての本を読んだ中で、

『思い出せない脳』(澤田誠著 講談社現代新書)の中に答えがあった。

 

 

 

 

“睡眠不足が記憶の整理を妨げる”

たしかに、眠れていない。

 

“好奇心を持ち、心を動かしながら日々を過ごす”

それはそうだけど、子育てと掃除洗濯に追われる日々に、好奇心をもつ時間はない。

 

“質の良い睡眠を取る”

わかるけど、ネコに邪魔されて眠れない。

笑いごとじゃなく、我慢してたら人生を無駄に過ごす。

 

主婦の役目は、料理洗濯掃除家の雑事銀行に行ったり衣服の管理をしてクリーニングに出したり肉野菜魚のバランスのとれた食事を作って家族の健康を守り家庭を切り回してゆくこと…。

そこにわたしの場合は、子供のアレルギー食を作ることが加わり、ペットたちの世話もあった。

いつ起されるかわからない、この20年ほどの生活。

ぐっすり寝たい、体を休めたい、脳を別のことに使いたいと思うのは、主婦にとって贅沢だと思っていた。

歴史書を読みたい、途中で諦めた神社の研究も再開したい、と思いつつ、

覚えられないし……と自分が情けなかった。

 

ドジャースの大谷選手が睡眠の質を重視していることはよく知られている。

そこまでの活躍をしたいわけではなく、

自分の体をもう少しいたわろうという気になった、今回の検査結果だった。

 

寝る前に、翌日の予定ややりたいことをノートに書き出しておく。

書いておかないと忘れてしまうので。

そして睡眠の質を高めたい。

これはニャンズの協力が不可欠だ。

どう説得しようか。