From 室伏謙一@政策コンサルタント/室伏政策研究室代表
 

 皆さんは「KPI」という言葉を聞いたことがありますか?
Key Performance Indicatorの略で、民間企業では業績を評価する際の指標として使われています。いってみれば数値目標なのですが、なんと今や国や地方公共団体においても使われるようになっています。

 なるほど、限られた財源、国民の収めた大切な税金を扱う国や地方公共団体が明確な数値目標をもって業務を進めるのは当然であり、非常にいいことである、そんな風に思われる読者も多いのではないでしょうか。

 確かに、数値目標を設定することがふさわしい、それが当てはまる施策であればそれはそうなのかもしれません。しかし、国や地方公共団体が行う事務事業、ここでは行政活動としておきましょう、は必ずしも数値目標が設定できるわけではなく、また、数値目標のみでその行政活動の効果や成果を測ることができるとは限りません。百歩譲って、ある行政活動の一つの側面を見るための指標としてというのであればありうるのでしょう。ただし、それはあくまでも参考情報という位置付けであって、絶対的な指標、基準になりうるものではありません。(道路や交通インフラを例に考えれば分かりやすいかもしれません。)

 ところが、このKPI、国の重要(であるとされる)政策の、絶対的とは言わないまでも極めて重要な指標となってしまっています。その典型例が成長戦略です。安倍政権肝煎りで設置されて途中で看板を架け替えた(一応「発展的統合」とされていますが。・・・)、政権の成長戦略の検討・決定組織である未来投資会議では評価指標としてKPIが用いられ、進捗状況、達成の度合いについて評価が行われています。しかし、例えば、デジタル市場関連で、「企業価値又は時価総額が10億ドル以上となる、未上場ベンチャー企業(ユニコーン)又は上場ベンチャー企業を2023年までに20社創出」といった指標が果たして国の施策の数値目標として正しく、それで施策の評価ができると言えるのでしょうか?

 民間企業であれば、事業機会を拡大する、収益の機会・可能性を増やすという意味でこうした目標を設定するというのは十分ありえますし、その進捗状況に応じて事業戦略や投資戦略を修正していくという意味でも明確なKPIとその評価は必要でしょう。しかし国の場合にあっては事業や投資を行って収益を得る主体ではありません。ある時はデジタル関連企業が事業活動をしやすい環境作りを進め、事業活動が過剰になったり事業活動により国民に不利益が生じたりすれば、規制の強化等により適正化を図っていくといった、社会経済の状況に応じて、公益を守り、増進するための対応が求められます。結論を急げば、「ベンチャー企業を◯社創出」などといったKPIは国が設定する数値目標、評価指標としてはふさわしくない、不適切だ、ということです。(なお、「20社」という数字がどこから出てきたかについては、霞が関にありがちな机上の数値か特定の企業や団体の「利益」が背後にあり、創出された等が考えられます。)

 またこんなものもあります。「10年間(2013年度~2022年度)でPPP/PFI の事業規模を 21兆円に拡大する。このうち、公共施設等運営権方式を活用したPFI事業については、7兆円を目標とする。」これは「PPP/PFI 手法の導入加速」のKPIですが、コンセッションの導入自体は各事業主体の判断によるものであって事業規模の数値目標をもって云々されるべきものではありません。まあこれは「事業規模」という言葉を「売上」や「収益」に置き換えてみれば分かりやすいでしょう。明らかに何がしかの企業の利益が背後にあって積み上げられたというか作られた数字だということです。

 こんなものがKPIになったらたまったものではないですね。いってみればレントシーキングの進捗状況を測るためのモノサシになっているようなものですからね。

 ところがこうしたKPIが設定されてしまうとそれが一人歩きするようになるか、金科玉条のようになり、それが達成できない状況こそが悪で、達成を阻んでいる規制を緩和しろ、「抵抗勢力」を排除しろといった方向に暴走を始めます。そうなるともうKPIの数値がいいのか悪いのか、それを達成するのがいいのか悪いのかなどといったことは言っていられない状況になります。これでは政策の柔軟性も、社会経済の状況に応じた臨機応変な対応も何もできません。

 こうしたものに振り回され、自縄自縛になっていることも、深刻なデフレ下にあって、デフレを促進させる政策を打ち続けるという政府の奇行の原因の一つとなっていると思います。

 実はKPI、人事評価にも用いられているようで、それが短期的で短絡的なガラクタ政策を生む温床にもなっているようですが、長くなってしまうのでその改正はまた別の機会に。
 


---発行者より---
総理「政権中にこれを破棄できなければ、日本はオシマイ」

三橋貴明と総理との会談時で明かされた真実。

●総理が、三橋との会食をオープンに
(世に公開)してまで国民に伝えたかった事とは…?

●この会食で明らかになった、
私たちの邪魔をする”3つの敵の正体”とは?

●2020年に訪れるかもしれない
日本の危機的状況とは一体何なのか?

日本が発端となり、
2008年のリーマンショックが再来する?

などなどメディアが決して報道しない
「安倍総理の告白」と「日本経済2020年危機」
について解説した書籍を出版致しました。

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https://keieikagakupub.com/38JPEC/1980/



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