世の中で鼻の手術をした人ってどれくらいの割合でいるのでしょうか。
この鼻の手術 蓄膿症だけに限った事では全然ないです。
私の場合は、蝶形骨洞の粘膜が炎症を起こした関係でふさがってしまったので、
左右に一か所づつ穴をあける手術でした。
例えて言うなら、洞窟には入り口があってしかるべきなのに、
土砂くずれが起きたせいでふさがり、密閉状態になってしまったのです。
そこで、改めて入り口を作る開通工事が始まり、
どうせ作るなら二か所作っておいた方が安全だよねって事でした。
(また土砂くずれがあっても片側は生き残るから)
私が入院している間に、同じく鼻の手術をした患者は他に2名。
1人は、酔っぱらって殴り合いのケンカをして、鼻の骨が折れてしまった二十代のお兄さん。
もう1人は、体育の授業中にアクシデントがあって、鼻を複雑骨折した中学生男子。
3人とも手術内容は違えど、最後の処置は一緒。
両方の鼻の穴に 『これでもかっ』 ってくらいガーゼを詰め込まれます。
ガーゼと言っても細くて長い形状なので、包帯をイメージした方が正しいかも。
私の場合は、約1mくらいの包帯を、片側に4本。計8本詰め込まれました。
当然口呼吸のみになります。
入院する前からその説明は受けていたので覚悟はできてたつもり。
『風邪で鼻が詰まったと思えばなんかなるっしょ』
などと、軽く考えていたのが間違いでした。
風邪の鼻づまりなど比ではありません。
考えてもみてください。
合計4mのガーゼが一つの鼻の穴に詰め込まれた密閉度と言ったらもう。。。
麻酔がきれた瞬間は呼吸ができなくて大変でした。
口のみで必死に呼吸します。
でも疲れる。苦しい。こんな状態で1週間とか絶対無理。死んじゃう。
『お願いだからガーゼを抜いて』 と泣きながら看護師さんに訴えました。
もちろん 『取ったら手術の意味がなくなっちゃうんですよー』 と流されて終わり。
呼吸に疲れ果てたのか知らないうちに眠ってしまった私。
起きると、あーら不思議。
呼吸が楽になってるじゃありませんか
そうなんです。
実は人間の呼吸って、案外ゆっくりなんですよね。
おまけに吸ったり吐いたりする間に一拍間があったりして・・・
常に吸って吐いてる訳じゃないんです。
これは目からウロコでしたねー。
眠ってる間に、自然に本来の呼吸ペースを取り戻してたんです。
いやー神秘ですね。
呼吸の次に困ったのが口と喉の渇き。100%口呼吸ですからねー
口が乾くので定期的に水分をとってうるおします。
夜中は口の渇きで2~3時間ごとに目がさめるで、都度洗面所でうがい。
どのみち点滴のせいでトイレ回数が増えるので起きますけどね。
この水分補給も大きな落とし穴でした。
鼻を密閉された状態で水分を飲もうとしたもんなら・・・
耳が爆発寸前です。
ホントに少~しづつ少~しづつ飲まないと、鼓膜までどうにかなっちゃいそう
鼻手術組 3人で首を揃えては言ったもんです。
『 鼻つっぺ・・・ナメてたわ 』 と。。。
そうは言いながらも、日を増すごとに鼻つっぺにも慣れて行きます。
最初は、
『え・・・鼻をふさがれたままご飯???死んじゃう』 とたじろいだ食事。
お味噌汁を口にふくみ過ぎて耳が爆発しそうになったり、
おかずをゆっくり噛み過ぎて窒息しそうになったり。
いろいろ思考錯誤と経験を積み重ねて、人は段々成長します。
最初はヨーグルトでさえ息絶え絶えだったのに、
最後にはカボチャの煮物でさえ余裕で食べてました
そうして着々と治癒していく私達に、複雑骨折の中学生から恐怖の情報が入ります。
『あのさ・・・ちょっと噂で聞いたんだけど・・・
最後のガーゼ抜き 超痛いらしいよ』
うーん。確かにね。
他の2人は知らないけど、私の場合、鼻の中の粘膜を切り取って穴を開けた訳で・・・
大量の血やら、分泌液がガーゼに染み込んでる訳だよね。
しかも、そのガーゼはごったまに固まった状態のまま一週間詰め込まれたまま。
治癒しつつある傷口や、はたまたお鼻毛にだってくっついてるって事でしょ?
そりゃ痛いわ。。。
そんな不安をかかえつつ、私の処刑・・・もとい、ガーゼ抜きの日がやって来た。
いざっ・・・
担当医師が容赦ない勢いでガーゼをピンセットで引っ張る。
『ギャーーーーーーーっ 』
痛い・・・痛いなんてもんじゃない。
泣き出す私をガン無視で、ガーゼ抜きにいそしむ担当医師。むしろ楽しそう。
ダメだ・・・コイツ ドSだったのか。
とにかく耐えよう。耐えればいつかは終わる。
怖いので目をつぶってみる。
なんかわかんないけど腕や顔に生暖かい液体が飛び散る。
ふと先生の動きが止まった。
『お・・・終わったんですか?』
『ううん とりあえず3本ね』
『えっ 終わってないのっ?あと何本っ???』
『あとは一番奥の1本だよ。もうすぐ終わるからね』
『えっ 1番奥???もしかして1番痛いんじゃ・・・(とすでにここでピンセット挿入)』
『ギャーーーーーーーっ 痛いーーーーーーー 』
もう何もすがるものがなく、
悲しいかな自分で持たされたガーゼの受け皿をひたすら強く握って耐える。
数分後。。。
『終わったよー』
『お・・・終わった』
ふと目をあけると、顔や腕、自前のパジャマにまで、無数の血が飛び散りまくり。
この姿のまま外に出たら、間違いなく通り魔殺人で通報されるレベル。
そして最後に担当医師から衝撃の一言。
『終わった事は終わったんだけどさ・・・・
出血が多過ぎるからダメだな。こりゃ。もう1回やり直しだ』
そう言って、私の心の準備などお構いなしに新しいガーゼをピンセットで詰め始める。
『ギャーーーーーーーっ 痛いっ 無理無理無理っ 』
医師 相変わらずガン無視。
そりゃそうだ。無理矢理ガーゼを引っ剥がされて生傷だらけの鼻の穴に、
グイグイとガーゼを押しこめられれば痛いに決まってる。
でも、後から聞いた話では上には上がいて、
あまりにも出血が多いと、
ガーゼを詰める為だけに、麻酔をして手術室行きになる事もあるらしい。
とにかく、出血が少量になるまで、
ガーゼ抜きとガーゼ詰めは日々繰り返されるそうで、
実際にそういう患者さんは少なくないとの事。
ひーーーーーっ 私はあと何回っ???
フラフラになりながらベッドに戻り、速攻で傷み止めの座薬をもらってさす
小一時間ほど爆睡。
はっ 入院が延びた事、職場に連絡しなくゃ。
電話をかける。
ん???なんかしゃべりにくい
鼻の中で血がブシュブシュいってる。
そして鼻から血がダラダラ。
あわてて看護師さんにヘルプミー
どうやら、
麻酔をかけないでガーゼを入れるにはどうしても限界があってガーゼがあそんでしまうそうだ。
そんな事を話してるうちに、今度は喉の奥に血だらけのガーゼがぶら下がっている。
ガーゼ 遊び過ぎやろっ
さすがにこれはウザいと訴えたら、看護師さんが2人がかりで切ってくれようとしたんだけど、
何せ場所が喉の奥だけに難しい。
すると、ドМの医師がまだ診察室にいたらしく、すぐに鉗子で切ってくれた。
本当にあっと言う間。
『 どれどれーあーこりゃ邪魔だね。チョキン 』
て感じ。そこはさすがプロだなーって感激した。
ちなみにその 『ガーゼの遊び』 は今までと雲泥の差だった。
多少の隙間がある為、ご飯の味がわかる。
いままでは視覚があるからかろうじて何を食べてるかがわかった程度で、
美味しいとか美味しくないとかいうレベルじゃなかった。
味覚・・・カムバック
そして私が早速やった事は・・・
外来の自販機に行って、紙パックのココアを買った。
あぁ、なんて美味しいんだろう。
甘いってこんなに幸せなんだ。はぅううぅ
翌日、またガーゼ抜きの時間がやって来た。
今回はメンズ2名も一緒。
彼らは手術自体が私より1日遅かったので、ガーゼ抜きも1日遅れ。
このガーゼ抜き、個人差があるので痛くない人もいるらしい。
ちなみにメンズ2名は痛い派だったらしく、
複雑骨折中学生は、声にならないような声をあげ、揚句には看護師さんに押さえつけられる始末。
酔っ払いゲンカのお兄さんは、痛くて腰が抜けたと。。。
それでも2人とも一発OK。
骨折だから傷口のダメージが少なかったのか、
それとも若さゆえに治癒の速度が私と違うのか。。。
私はと言うと・・・今回はなんとか合格。
前日に入れ直したばかりのガーゼなので、患部にへばりつく事なくスルスル抜けてくれました
それでも多少の出血はあるので、今度は綿球を詰められます。
でも1個なので全然余裕。入り口のみの仮止めって感じ。
翌日にはみんな仲良く退院しましたとさ ちゃんちゃん
たかが鼻 されど鼻。
鼻の手術 侮る事なかれ。
この体験談が、これから鼻の手術に挑む方のお役にたちますように。。。