2023年もあっという間に暮れようとしております。今回は年末らしく(?)あの名盤の登場です。


1963年にリリースされたビートルズの2ndアルバム”With The Beatles”のUKオリジナルモノラル盤(品番 : PMC 1206)の中でもマトリクスの枝番が1Nの盤、通称「ラウドカット盤」を入手しました。そこで今回は以前御紹介しました-7Nの通常盤と比較してみました。


-7Nの通常盤は此方で紹介しております。


”With The Beatles”のモノラル盤は当初、マトリクスが-1Nの盤が作られました。しかしながらこれが納得のいく音質ではなかったため、マスタリングが再度行われました。とりわけ本作ではマトリクスのバリエーションが多く、-3Nから-7N迄存在しています。因みに、マスタリングに失敗したのか、-2Nの盤は存在しません。最終的にマトリクスは-7N(=ここまで7回マスタリングが行われた)に落ち着き、音質も優れていたのか60年代末のモノラル盤最終プレスまで-7Nの盤が一貫して製造され続けます。そのため、-7Nの盤は本作のモノラル盤の中では最も入手し易いタイプとなっています。さて、話を戻しましょう。一番最初に作られた-1Nの盤は謂わば製品としては不良品ですから本来であれば破棄して作り直すべきですが、以前御紹介しました”Rubber Soul”と同様、レコードの製造枚数を稼ぐ為にこれらの盤も製品として出荷されました。こうして他のマトリクスの盤に混じって出荷された-1Nの盤はその後の盤よりも音圧が高いと言われており、ラウドカット盤としてマニアの間では親しまれています。


-1N盤の中でもレーベル表記にはバリエーションが存在しており、B面7曲目”Money”の楽曲著作権を示すクレジットが本来Dominionであるべき所をJobeteと間違えている盤とDominionに修正された盤が存在しています。因みに、Jobeteと表記されている方がより初期のプレスとされており、今回入手した盤はJobete表記の最初期プレスです。また、B面3曲目” YOU REALLY GOT A HOLD ON ME”は” YOU REALLY GOTTA HOLD ON ME”と間違えていますが、マトリクスが進んだ後の盤では修正されます。


-1Nの盤。


-7Nの盤。盤の重量は-1Nのものと比較するとやや軽くなっています。B3のタイトルとB7の著作権表記は正しいものに修正されています。


ハーフシャドウが特徴的なシンプルなデザイン。UK盤ですからコーティング付きです。


ハーフシャドウの部分は-7Nのものと比較してみますと色合いが異なります。-1Nの方は顔の左側が完全に黒く潰れています。


-7Nの方は色合いが変更されて綺麗なグラデーションになっています。眼の輝きが違います。ジャケット写真にも修正が掛けられた模様です。


裏面。”YOU REALLY GOT A HOLD ON ME”は” YOU REALLY GOTTA HOLD ON ME”という表記になっています。此方も後のプレスでは”GOT A”に修正されますが更に後のプレスになりますと何故か”GOTTA”表記が復活します。僕が所有している-7N盤の方は”GOTTA”表記です。


重箱の隅をつつくようですが、-1Nと-7Nとのジャケットでの違いを発見しました。右上に書かれている品番の位置とフォントが若干異なるのです。それぞれ手前が-1N、奥が-7Nとなっています。


インナースリーブはEMI純正品が付属。中央部分がビニール製の恐らく当時使われていたであろう古いタイプです。


ここからは実際に-7Nの盤と聴き比べを行ってみました。

※聴こえ方の個人差や再生機器、盤の個体差によっても音は変化しますのであくまでも参考程度にお読み下さい。


-1N盤から聴いてみました。先ずはA面。最も違いを感じられたのは“Till There Was You”でした。イントロのギターからデカい…。サ行がやや耳障り(レコードはサ行の音が歪み易く、ここを如何に綺麗にマスタリングするかがカッティングエンジニアの腕の見せ所の一つです)なものの、非常に生々しいポールのボーカルには感動すら覚えます。目の前で歌っている情景が浮かびます。酷く歪むと言われている”Please Mister Postman”は思った程歪まず。

A面では-7Nと大きな違いを感じたのはこれらの曲くらいで、ラウドカット盤、(僕の期待値が高過ぎたのかもしれませんが)思った程大した事ないのかなぁと思いながらひっくり返しますと、B面は更に化けました。先ずはB1”Roll Over The Beethoven”です。この曲はリンゴがライドシンバルを叩きまくる曲なのですが、この音が非常にデカい。デカ過ぎてスネアドラムなど他の音がかき消されてしまっている程です。続く”Hold Me Tight”も迫力満点のドラムです。


次に-7N。確かにやや迫力は落ちますが楽器の音量バランスは整っており、聴き疲れしません。実家の様な安心感…。但し、”Please Mister Postman”は-7N盤の方が寧ろ歪む事が分かりました。僕が所有している-7N盤は溝がへたっているのか、プレス時期が遅く原盤が劣化しているのかのどちらかでしょう。


マトリクス-7Nの盤は先述の通り60年代末のモノラル盤最終プレスまで一貫して製造され続けた点から、音質やジャケットデザインの面においても一応の完成形となった訳ですね。


-7N単体でも充分に素晴らしい音ですが、特に-1Nも手に入れておきたいところです。


2023年もご覧頂き有り難う御座いました。皆様良いお年をお迎え下さい。今年は思った程更新が出来ず、悔やむばかりです。来たる2024年は更新頻度を上げていきたい所であります。