今回は「ウィズ・ザ・ビートルズ(原題:With the Beatles)」です。このアルバムはイギリスにおけるビートルズの2作目のアルバムとして1963年にリリースされたものです。前作「プリーズ・プリーズ・ミー」よりもフォーク系の曲が増えるなど、作風の幅が広がった1枚です。ステレオ盤もほぼ同時に作られましたが、時代柄粗末な代物なのでもしもステレオ盤を聴かれるのであればヘッドホンやイヤホンではなく、出来ればスピーカーに繋げて聴くことをお勧めします。


僕が持っているものは2009年リマスター音源のCDとアナログ盤2種類(それぞれUKオリジナルモノラル盤、国内初回ステレオ盤)です。今回はアナログ盤を紹介していきます。


UKオリジナルモノラル盤からいきましょう。マトリクスは両面”7N”となっており、ラウドカットとして有名な”1N”ではありませんが結構良い音がすると云われている盤です。ラウドカット盤はカッティングレベルが高過ぎるため音割れが激しいようで、修正が行われた”7N”の方が聴きやすいそうです。”7N”(つまりこれまで6回カッティングをやり直したもの)と聞くとかなり後期のプレスのように感じますが、このアルバムは短期間で何度もカッティングがやり直されたらしく、これでも初期のプレスになるそうです。本作は納得のいくレコードが出来るまでかなり苦労したことが窺えますね。


この盤は某店で7,050円というかなり安価で売られていたものの、コンディションは良かったため買ってしまったものです。


ロバート・フリーマン撮影の有名なハーフシャドウ写真が使われたジャケット。状態も比較的良好。同時期にリリースされたUS盤や国内盤の「ミート・ザ・ビートルズ」などにも同じ写真が使われているためこの頃のレコードは本当にややこしい。完全に初見殺しだと思います。


此方が「ミート・ザ・ビートルズ」のジャケット。どちらもモノラル盤です。向かって左から国内盤、US盤です。ぱっと見同じ内容のアルバムに見えますが収録内容はそれぞれ異なっており、混乱を極めます。


「ウィズ・ザ・ビートルズ」の裏面はこんな感じ。モノラル盤の型番は”PMC 1206”です。折り返し部分は傷みやすいですが幸い綺麗な状態で残っています。B面3曲目”You Really Got a Hold on Me”の”Got a”の部分が”Gotta”と間違えた綴りになっています。この部分は後期のプレスになると修正されるようです。因みに、盤のレーベル部分の表記は修正されていました。


インナースリーブ(オリジナル?)も付属しています。真ん中の部分は薄い紙なので後期のタイプ。


レーベルはイエロー・パーロフォン。このアルバムは最初からこのタイプのレーベルです。レーベル部分の特徴から64年頃のプレスである事が分かりました。僅か1年の間に何度もカッティングをやり直したのですね。


盤面には少々傷があるため、見た目に関してはこの間の「プリーズ・プリーズ・ミー」よりも程度は下がりますが実際に再生してみるとノイズは殆ど出ないため、再生に関してはこの間の「プリーズ・プリーズ・ミー」とほぼ同程度だと思います。A面開始前にザー、ザーと2箇所溝が傷んで出来たようなノイズが入りますがアルバムが始まる前なので全く問題ありません。


マトリクスはかなり進んだ”7N”だったため音は大した事無いだろうと聴く前は舐めてかかっていました。しかし実際に聴いてみるとぶっ飛びました。いやあ、お見それしました。音質はモノラル盤特有の迫力がありながらも音の解像度が高く、迫力と高音質を兼ね備えた素晴らしい盤です。正に高音質盤!当時のカッティングエンジニア達が目指した音はこの音なのでしょうね。


「ウィズ・ザ・ビートルズ」のUKオリジナルモノラル盤はマトリクス”1N”俗に言うラウドカット盤ばかり注目されがちですが、希少性ではなく音を楽しみたいという方にはマトリクス”7N”高音質盤をお勧めしたいです!


続いて国内盤です。此方は国内初回盤でビートルズ来日記念盤として1966年に発売されたものです。ジャケットが独自のデザインに変更されているほか、「ステレオ!これがビートルズ Vol.2」というなんとも仰々しい邦題が付けられています。そして何故か曲順が独自のものとなっており、ピッチも若干上げられています。曲順ならまだしも何故ピッチまで上げたのか理解出来ません…。


因みに、「プリーズ・プリーズ・ミー」は”Vol.1”として独自のジャケット、曲順で同時に発売され、76年にイギリスと同じ仕様で再発されるまでは2作ともずっとこの仕様でした。この2作の国内モノラル盤は82年まで存在しません。


ジャケットはいかにもアイドルらしい写真が使われたデザイン。東芝音楽工業(現在のユニバーサルミュージック)から発売され、型番は”OP 7549”となっています。ジャケットは薄い紙で出来ていますが、表面にはコーティングがあります。本来ならば帯が付いている筈ですが、残念ながら僕が持っているものには付いていません。


裏面の写真はゴールドディスク記念式の時のものでしょうか?ゴールドディスク受賞記念の盾をもつビートルズの4人。「シー・ラヴズ・ユー」をポールが、「ウィズ・ザ・ビートルズ」をジョンが持っているのがわかります。リンゴとジョージが持っている盾はよく見えません。


このジャケットは見開きタイプとなっており、中には数頁の写真集と歌詞カードが綴じ込まれており、結構豪華な仕様です。


写真集のラストの頁は歌詞カードになっています。曲目の部分をアップで撮ってみました。

インナースリーブは東芝製レコードではお馴染み、広告入りのものが付属しています。「ヘルプ!」の広告も有りますね。このスリーブは少々シミがあるものの、破れや裂けは無く、かなり良好な状態です。薄い紙が使われており破れやすいため状態が良いものは珍しいです。

国内独自仕様の「ウィズ・ザ・ビートルズ」のうちアップルレーベル変更後、69年以降の再発盤はちょくちょく見掛けますが、オデオンレーベルの初回盤はあまり見掛けない気がします。

盤はこの時代の東芝製としては珍しい黒盤です。この頃の東芝製レコードは盤を赤黒く着色した赤盤が殆どであったため、黒盤は寧ろ珍しかったようです。他のレコード会社にプレスを委託したレコードが黒盤だったみたいです。

此方が当時東芝ではレギュラーだった赤盤。写真は「サージェント・ペパー」のものです。

盤質は全体的には良好ですが、B面2曲目「マネー」には深い傷(盤が抉れて出来たような傷)があるため、ブチッと盛大に雑音が入ります。しかしながら傷自体は小さいため僕のプレーヤーでは針飛びせずに再生する事が出来ます。

白く囲った部分の中心にある白い点のように見える場所が傷。傷自体は小さいですが抉られた跡のようになっています。あまり見ない傷ですね。何か鋭利なもので抉ったのでしょうか?

モノラル盤の素晴らしさを改めて実感した1枚でした。「ウィズ・ザ・ビートルズ」も例に漏れるモノラル盤、ステレオ盤それぞれにミックス違いがあるため聴き比べも新たな違いが見つかるので楽しいです。

いやぁ、ここまで素晴らしいとモノラルカートリッジが欲しくなりますね。プレーヤーを買い換えたい!(これ言うの何度目だよ)