土地一寸人間一人たりとて死守すべし | 旗本退屈女のスクラップブック。

 

西村眞悟の時事通信

 

平成29年3月26日(日)

四十年前の昭和五十二年(一九七七年)十一月十五日、
中学一年生の横田めぐみさん(十三歳)は、
午後五時半頃、新潟市立寄居中学校体育館でバトミントンの部活動を終え、
午後六時半頃に同級生二人とともに寄居中学正門を出て自宅に向かって歩き出し、
途中同級生二人と別れて一人になってから、自宅付近で、
北朝鮮工作員に突然身体を拘束されて北朝鮮に連れ去られた。
この横田めぐみさんの失踪が、
北朝鮮による拉致であることを
日本政府が「公式に」確認したのが、
二十年後の平成九年二月である。

平成八年十二月末、
現在、特定失踪者調査会代表をつとめる荒木和博氏が、
私の事務所に来て、
韓国に亡命した北朝鮮工作員が、
北朝鮮は十三歳の女の子を中学校からの下校途中で拉致したと韓国当局に証言しており、
韓国側が日本の警察に照会しているが、
日本側は返答していないらしい、
と伝えた。
荒木氏と私は、
このまま日本側が無関心で反応しなければ、
その女の子に危険が及ぶ、と判断し、
年が明けた平成九年一月、
私は、内閣に質問趣意書を提出し、
次いで二月、衆議院予算委員会で橋本龍太郎総理に対して
北朝鮮による横田めぐみさん拉致の確認を促す質問をした。

これらの質問は、全て「横田めぐみ」という実名で行った。
「少女A」ではインパクトがなく、却って、本人に危険が及ぶと判断したからだ。
しかし、質問してから、北朝鮮の反応が読めず、
実名で行ったがゆえに、めぐみさんの危険が増したのではないか!
との思いを払うことができず、
後に、北朝鮮がめぐみさんの遺骨として提出した骨が、
別人のものであることが判明し、
母の早紀江さんから
「めぐみのものではありません、めぐみは生きています」
との連絡を受けるまで懊悩は続いた。
大阪の路上で早紀江さんから、
その連絡を受けたとき、おもはず空を見あげた。

横田めぐみさんのご両親の横田滋さんと早紀江さん、
そして多くの拉致被害者の家族が相寄って拉致被害者家族会ができて
この三月で二十年が経過したのだ!
その間、被害者五名は帰国できた。
しかし、横田めぐみさんら確実に百名を越えると思われる拉致された日本人は、
未だに北朝鮮に抑留されたままだ。

幕末、既に先人は警告を発している。

「土地や人民を異国に奪われるは日本の恥辱。
 土地一寸人間一人たりとて死守すべし。」藤田東湖「回天詩史」

そして、「死守する」ために
明治の近代がひらかれた。
しかし、
戦後の現在、特にこの二十年、
我が国の内閣は、「死守する」ために何をしたのか!
不作為!
ではないか。
国内にいる拉致の犯人を一人でも逮捕したのか。
国内にある拉致実行に関与した組織である朝鮮総連を一回でも家宅捜索をしたのか。
およそ、強制捜査は、一回も行っていない!
対北朝鮮折衝組織である外務省と内閣は、
北朝鮮に、喜々として騙されてきたのではないか。
何故、「喜々として」か。
それは、北朝鮮を信頼したふりをして騙されておれば、
拉致被害者救出のための
実力行使の決断を迫られることはないからだ。

なお、平成八年に、
我が国政府は韓国当局から
「北朝鮮からの亡命者が、
北朝鮮工作員が日本で十三歳の女子中学生を拉致したと証言しているが、
そのような事実を把握しているか」
との照会を受けたはずだ。
ところが、
この平成八年の韓国からの照会から、
平成九年二月に我が国総理大臣が北朝鮮による横田めぐみさん拉致を認めるまで、
我が国政府が、独自に韓国の照会に該当する横田めぐみ失踪事件の調査をした形跡はない。
即ち、我が国政府は、国民が知らなければ、
現在に至るも拉致問題に関して、見て見ぬふりを続けていたはずだ。
また、平成十四年九月十七日の平壌宣言を
外務省は「拉致被害者救出のため」と強弁してきているが、
恥をしらない、まっ赤な嘘である。
これは、
「被害者五名生存八名死亡による拉致問題の終結」
つまり、
「要救出人員ゼロ」=「他の被害者は棄民」
を確認したうえで
日朝間に国交を樹立して日本側が巨額の金を北朝鮮に支払うことを約したものである。
世紀の棄民文書、
世紀の欺瞞文書である!

さて、三月二十四日、
私は荒木和博さんら特定失踪者調査会と共に新潟現地特別検証を行った。
今まで、新潟を車で回っただけであったが、この度は、徒歩で廻ったのだ。
それは、
・拉致された時のめぐみさんが帰宅した寄居中学から自宅までの道、
・その時刻頃の高校生が屈強な男たちに追いかけられた現場、
・その時刻頃に不審な白い車が目撃された寄居中学北側の道、
・拉致から数日後、母の早紀江さんが車の中の不審な男に声をかけられた現場、
その徒歩調査の問題意識は、
(1)横田めぐみさんの拉致現場は、
それまで、言われてきた警察犬が追跡を止めた
表通りから横田家方向に曲がる曲がり角ではなく、
まさに、めぐみさんの家の数歩手前の空き地の横ではないか。
(2)新潟県警および警察庁幹部そして政府は、
事件直後から本件が北朝鮮による拉致事件であることを認識していたのではないか。
ということである。

十一月十五日の本件拉致事件の四十五日前の九月三十日、
我が国政府(警察庁、福田赳夫内閣)は、
能登半島で久米裕さんが北朝鮮工作員に拉致されたことを把握しており、
同時に、北朝鮮が日本国内の北朝鮮工作員に発する暗号の乱数表の解読に成功し、
北朝鮮が国家として日本人を拉致しつつあることを認識していた。
しかし、周知の通り、
日本政府は、北朝鮮に抗議した形跡もなく、
そのことを国民に隠し、
福田内閣は、
日本海側の警戒強化を警察・自衛隊等に指令することもなかった。
この指令があれば、横田めぐみさんは、拉致から救えたではないか。
これ、福田内閣・警察庁の
不作為による北朝鮮の日本人拉致幇助である。

この度の徒歩調査を終えて、
第一に、防犯カメラの津々浦々への設置の必要性
第二に、GPS(全地球測位システム)による捜査の必要性
を痛感した。
これら二つは、KGBのスパイから「スパイ天国」といわれて
外国工作員の自由な活動を放置する我が国にとって、
国民の生命財産を守るために緊急必要事項である。
これら二つがあれば、めぐみさんは救えた。
特に、めぐみさん拉致の当日(GPSは当時ないが)、
近くの複数場所で目撃されている「白い車」に
GPSが装着されておれば、犯人の素性などを突きとめることができる。
GPS捜査を違法とした最高裁の裁判官諸子も、
一度、犯罪現場を歩いたらどうか。