「菓子パンが食べたい。」
おじいちゃんが、息が大半の声で言った。
「一個でいい。一個でいいから食べたい。」
朝出勤してまもない時間で、
ナースコールで呼び出され、行ったら
朝ごはん食べ終わったから呼んだという
完食には程遠い膳。
「お願いがあるんだ。パンが食べたいんだ。
菓子パン、一個でいいんだ。」
私がどうこう出来る訳もなく
「分かった。看護師さんに伝えるね。」
そう言うだけでその場を立ち去った。
昼になり、配膳の時
たまたまその人へ昼ごはんを持っていき
そして午後のおむつ替え時にも
またその人のところへ行くという
のが重なって、
朝、パンが食べたいと伝えた人だと思ったのか
「甘いのが食べたいんだ。本当に何でもいい、パンが。。。」と言った。
おむつを替えながら、
クリームパンがいいのか、
あんぱんがいいのか、
チョコレートパンがいいのか、
ジャムパンがいいのか。
甘いのがいいって何のパンだろう
メロンパンかなぁと頭の中を
パンでぐるぐるさせてやり過ごそうとした。
この時代に、菓子パン一個でいいから食べさせてくれと、
望みを叶えてくれる人間かどうかも分からない相手に、何度も懇願し続ける姿に泣きそうになった。
「今日何度も何度もパンが食べたいって言ってて
菓子パン一個でいいからって。何か出せるものはないものか❓」って看護師さんにいうと
想像してた通りの回答があって絶望した。
それを私に伝える看護師さんも顔を歪めてた。
言っても替えられない、
それ食べたら飲み込めなくて詰まらせて命が危険にさらされるかも知れない。
わかるんだけど。
わかりたくない。
おうちに帰って来てから
病院の役目って何なんだ、
私って何なんだ、
って泣いた。
泣いてもどうしようもないのに。
泣いてもどうしようもないから、また泣けた。