序章 ―封印―

 

太古の昔、この世界は闇に覆われていた。

邪神ネヘ=ホモンにより、愛・希望・夢という概念は幻となっていた。

 

だが、悪だけが蔓延ることはあり得ない。

悪が立ち上がれば、対抗して勇者も立ち上がる。

対角線上で決して交わることの無い2つの存在だが、引かれ合うように降り立つのが世の常。

 

勇者は世界の深淵を旅し、この世の理を司る"繭"の力を手に入れた。

原理・原則・因果すらも捻じ曲げる"繭"の力を持って、邪神は封印された。

 

邪神「ふっ、繭の力か。今回は貴様に味方したようだな。だが、最後に真理に至るのは儂だ。機が熟すまで身を退くとしよう・・・」

 

 

1章 ―胎動―

 

むかしむかしある所に、自国を治めるメルという盟主がおりました。

彼女は調理の力で国を富ませ、数多い盟主の中でも有力な地位を占めておりました。

ある日、盟主同士で大陸の統治について語り合う会合で、1つの御触れが出されました。

 

元老「世界は長きにわたる平和を享受しておるが、満たされぬ者もおるようじゃ。小国間では小競り合いが絶えず、大国でも軍人が力を示そうと水面下で争っていると聞く。そこでじゃ。皆の国威発揚の機会として、"武闘祭"を執り行おうと思う!」

 

武闘祭。

太古の文献に記された祭典。

人々の心に潜む闘争心を上手く抑え、大国間の戦争を防ぐための催しだったと聞く。

 

有力盟主の一角としての威厳を示すため、そして自国の調理の魅力を世界に広めるため、メルも迷わず参戦を決めた。

何より、会場が"カワサキ"の街であることが大きい。

メルの国で生まれ、その後世界の料理を知るため流浪の旅人となった伝説の料理人"コック・カワサキ"により栄え、その名が付けられた街だと聞く。メルの国から遠く離れた異国の街だが、その逸話は伝説となり、聖地として崇められている。

メル自身も並々ならぬ憧憬を抱き、必ずや武闘祭で錦を飾ると心を決めていた。

 

だが、闘争心の渦巻く場所に邪は舞い降りる。

武闘祭を翌週に控えたある日、メルの元に一通の緊急通達が届けられた。

 

「邪神、復活す

盟主の諸君、武闘祭に向けて日々鍛錬を積んでいる折に恐縮だが、火急の用で連絡させてもらった。

太古の伝説として扱われ、人によっては直接対峙した者もおるようじゃが、邪神ネヘ=ホモンが復活したという報せを受けた。

まだ被害の報告は無く、完全に力を取り戻してはいないようだが、おそらく武闘祭の熱気に乗じ、往来の力を取り戻そうとしているのだろう。

だが、病み上がりの邪神に敗れる諸君ではないと信じている。必ずや鉄槌を下し、封印の棺に還してくれたまえ。

 

追伸

太古の記録によると、邪神は"瞬唱"の力を持ち、敵の態勢が整う前に速攻を仕掛ける戦い方が得意だそうな。

沈黙の状態異常が有効なので、覚えのある者は備えておかれたし。」

 

通達を受け、メルはある三姉妹を訪ねた。

 

長女「そういう依頼なら、私達の出番ね!」

 

メロシロ三姉妹。

表の世界で名を知る者は少ないが、工作担当として裏からメルの国を支えてきた。

中でもターゲットを沈黙させ、無力化させて捕らえるのは十八番だ。

 

 

そしてメル自身も。

太古の邪神との大戦以来、実戦で使う機会に恵まれなかった"力"を見せつける時が来たようだ。

 

 

2章 ―撃退―

 

奇しくもメルは予選1回戦で邪神と対決することとなった。

だが、1回戦なのは好機でもある。

まだ邪神の力は全盛期には程遠い。

 

今回の邪神は"NOISY"と"STAR ARROW"という2種の呪文を連打し、序盤で敵の戦闘力を根こそぎ奪い、一方的に攻撃を通す戦い方だった。

だが、メル側が先手を取り、"NOISY"を盾に埋めたことで早々に勝負は決した。

終始ペースを握り、メロシロの力で拿捕することに成功した。造作もない。

 

邪神「だがその戦い方、覚えたぞ・・・!」

 

奇妙な捨て台詞の残して去り行く邪神。

徐々に力を取り戻していた。

特に予選2,3回戦は敵に何もさせず、全ての戦闘力を奪って先攻3ターン目で蹂躙する結果に。

結局予選は3勝2敗の当落線上となるも、"オポネント"の呪文を唱えて強引にトーナメントに駒を進めた。

 

そして1回戦、やはり避けられぬ運命にあった。

メルは再び邪神と刃を交えることとなった。

 

 

3章 ―苦境―

 

予選とは全く異なる覇気に身構えるメル。

だが、一瞬の怯懦を看破されたことで、邪神に先手を奪われてしまう。

 

邪神「遅い遅い遅い!NOISY ARROW5連打ぁぁぁぁぁ」

 

 

1ターン目から敵の全てを奪い去る禁断の魔術。

使用には莫大なMPを消費するが、"アーツ"の力を借りて詠唱を続ける。

これぞ邪神の真骨頂。

 

三女「お困りのようね?まずは私の出番。」

 

 

武闘祭ではゲーム開始時、各勢力の構成員はランダムな場所に配置される。

早速最前線に駆り出される者も居れば、中団で構えて本格的な戦いを待つ者、盾に伏せてじっと盟主を守る者、役割は様々だ。

 

そして、このルールは邪神が最も得意な条件でもある。

序盤は大きな戦いを起こさず、ランダムな配置を得意な形に整えることがセオリーとされているが、邪神はそんなセオリーを無視して、序盤から乱戦を仕掛ける。

 

特に今回は、「NOISY ARROW5連打」という禁断の魔術により、初手から敵の最前線を壊滅させ、より序盤を優位に進める作戦だ。

邪神側も沈黙が弱点なのは百も承知。それならば、メロシロ自身が世に出る前に葬りされば良いのだ。

 

そんなメルにとって、メロシロの三女が第二陣に控えていたことは幸運だった。

後攻1ターン目、突然の敵の出現に驚く邪神。

だが、アーツ"フローズン・ギア"を宣言し、かろうじてメロシロの襲撃を退けた。

 

三女「私はダメだったけど、これで道は拓けたわね。」

 

先攻2ターン目、場・手札・エナの全てを奪う邪神の猛威は収まらない。

だが、このゲームには"盾"という概念がある。

盾が割られた時に運が良ければ特殊効果が発動し、戦況を一変させることもある。

 

次女「こんな序盤に私まで呼び出すなんて、凄いじゃない。」

 

 

ウェディング「私はまだ最前線に立てないけど、盾から支援するわ」

 

 

邪神がアーツでリソースを蓄えるならば、メルは盾でリソースを回復する。

一進一退の攻防。

だが、、、まだ足りない。

 

次女「あれは・・・?」

 

邪神側の陣地の奥からおぞましい気配を感じた。

卵のような形状で、周囲を糸が取り囲み、外周に黒くおぞましい邪気が漂っている。

あれはそう、繭、、、みたいな・・・?

 

メル「禁忌の繭。太古の昔に邪神を封印した力が、何故か今は邪神に味方している。恐ろしい効果をいくつも持つけれど、今はあなたの工作を止められるのが厄介だわ。数の攻めで突破できるけれど、NOISY ARROWの力で戦線はボロボロ。正直苦しいわね。」

 

禁忌の繭の力により、メルはじりじりと後退を強いられていることを感じていた。

背後は断崖絶壁。

霧でよく見えないが、押し込まれるとひとたまりも無いのだろう。

 

一度敗れた相手に油断はしない。

更に邪神は保険として"罠"を仕掛けていた。

邪神による必勝の包囲網が、今完成しようとした―――

 

 

最終章 ―三匹のメロシロ―

 

後攻2ターン目、やはりメルのリソース事情は芳しくない。

三女がフローズン・ギアを使用させたことで、邪神側の防御が緩み、沈黙の工作が成立しやすい状況ではあったが、最後の砦として禁忌の繭が鎮座する。

次女だけでは足りない。後一手あれば―――

 

メルが苦慮する中、1人の下級戦闘員によって戦況は動き出す。

 

フラポテ「ここは私の出番。リソースを稼いで反撃の緒を掴むわ!」

取り巻き「おい、バカ!!!」

 

ざわめく戦線。

 

邪神「愚かな部下を持ったな。まさか、目の前に堂々と仕掛けられた罠に気づかんとは。」
 

 

メルはレベル3,4とグロウするごとに力を蓄え、邪神の力を抑え込んでいく。

それが分かっているからこそ、定時ほーという罠を構え、いち早く盾を割り切り、決着を付けようとしていた。

 

まぁ、あからさまに設置するのだから罠というよりは、リソースを構えようとする敵への警告というべきか。

それがまさか本当に爆発するのだから、邪神の側も正直驚いた。

戦場にざわめきが広がる中、ただ一人メルは走りだした。

前線ではない。その正反対の、霧に覆われた断崖絶壁へ。

盟主の奇行にメル陣営の動揺はさらに広がりを見せた。

 

邪神「ファファファ、血迷ったか。それとも、恐れをなして盟主自ら尻尾を巻いたとも見える。」

 

フラポテが効果を発揮した後、戦場に爆発音が轟く。

断崖絶壁へ飛び出していたメルは、爆発の衝撃で勢いよく吹き飛ばされた。

突然の急展開に戦場に静寂が走る。そして、邪神が静寂を破る。

 

邪神「グハッ!な、なにをした・・・?」

 

霧の先から光が差し込む。霧は徐々に薄れ、メルの声が聞こえた。

 

メル「八方塞がりならば、九つ目の道を拓けば良い。まぁ、少々手荒な方法だけどね。」

 

霧が晴れると、メルは光り輝く1つの岩場に立っていた。

周囲は断崖絶壁。少しでも目測を誤ると転落していたのだろう。

だが、彼女は降り立った。戦場にただ一角そびえ立つと言われる、"希望の砦"に。

その砦には、降り立った者に対し1人だけ、希望の従者を呼び出す権利を与えるという。

 

長女「お待たせ。遅くなっちゃったわね。」

 

 

邪神「バ、バカな・・・自ら爆風を受けて、まだ見ぬ1枚の盾に全てを託したというのか・・・?」

長女「三女がフローズン・ギアを、次女が禁忌の繭を引き受けてくれた。だからこそ私はあなたを黙らせることが出来る。三本の矢は折れない。そして、三匹のメロシロは、、、あなたを貫いてみせる!!!」

邪神「グ、グハァァァァァァァァァ」

 

急転直下。

この瞬間、勝負は決してしまった。三匹のメロシロが紡いだ1ターン。そう、1ターンあれば十分だったのだ。

 

メル「邪気を祓う力で乱れた現世を鎮めよ、

 

"ベルセルク"

 

 

暴れ狂った姿が嘘かのように一言も発しない。

ベルセルクの力を前にして、邪神は微動だにすることもなく、メルの攻撃を受け続けていた。

 

邪神「なぜ、、、思いついたのだ?定時ほーが仇となるなど思いもせんわ。」

メル「あら、あなたが真っ先に思いつくと思ったわよ?古代のあなたは"炎機の歯車"や"ダ・ハーカ"といった、古代遺物の力を使いこなしていた。盾はただ身を守るだけの存在じゃない。盾から突破口を拓く戦い方もあるって、あなたから学んだの。」

邪神「ふっ、蘇ったと思ったが、儂はまだ過去の幻影を超えられてはおらぬとはな。今日は退くとするか。また相見えよう。"禁忌の繭"がある限り、近いうちに、、、な。」

 

またしても意味深な捨て台詞を残して立ち去る邪神。

だが、とりあえず世界に平定を取り戻せたようだ。

そして・・・

 

 

最後は頂に立つメルの姿が。

メル「コック・カワサキ。あなたにこの勝利を捧げます!!!」

邪神を退け、頂に立ったメルは、現世の勇者として後世語り継がれるのであった。(完)