「好きなデッキを使う」

 

勝敗が左右する世界の中で、俺は至極単純で、だがしばしば忘れ去られる理想にしがみついていた。

いつかは"環境という現実"と向き合わねばなるまい。

だが今だけは、新弾発売直後という狂乱の中では、自分の欲望の趣くままに戦っても良いではないか・・・?

 

1.邂逅

 

全てはあの"1枚"との出会いに遡る。

 

 

高貴なイラストと豪華なテキストの全てが、一瞬で俺を魅了した。

 

「パンプ」&「踏み倒し」

 

この1枚を使わずして何を使う?

速攻使いの血が騒ぎだしていた・・・

 

 

2.構想

 

「ハキリをどのデッキに入れ、いつ・何を出すか?」
 
直感と具体的な構築を結びつけることは難しい。
手札とマナの制約の中で、如何に速く走り抜けるか。
案が出ては没になり、次の案も没になり・・・
 
デュエマを始めて4ヶ月。
一発で正解に辿り着くには遠く及ばない。
徐々に思考を積み重ねるのみ。
 
・採用デッキ
 
ハキリの色は緑。
速攻と言えば赤。
赤と緑・・・?
 
 
「赤緑サンマックス」
これしか無いだろう。
 
速さだけではない。サンマックスとハキリの相性は抜群だ。
 
・相手ターンに6000打点となるため、場持ちが良く、「3体並べばT・ブレイカー」という条件を満たしやすい
・クリーチャーを展開できるため、これまた3体並べる条件を満たしやすい
・《トレジャー・マップ》により、不足している方をサーチでき、安定して揃えやすい
 
 
・いつ仕掛けるか?
 
サンマックスと言えば、白で相手に干渉しつつ、準備を整えて4,5ターン目で走り抜ける「赤白サンマックス」が圧倒的主流だ。
初期のサンマックスで見られた赤緑型は皆無と言って良い。
 
リリアングもプーンギも無い赤緑型。
だが、1つだけ赤白型に勝る利点があった。
 
「速さ」
 
だ。
緑のマナ加速を活かし、3ターン目から仕掛けることができる。
速さは正義。1ターン出遅れるだけで、相手はヴェルデ→デッドダムドの一掃、ガリュミーズ、ロマノフワンショット・・・自分の動きを押し付けてくる。
 

「トリガーを踏んで死ぬなら本望」

 

同じ敗北でも、ただ相手の土俵の中で踊り続けるのは虚無というものだ。
速攻を仕掛け、トリガー勝負に持ち込めれば、一旦はこちらの土俵に引っ張りこめたと言える。
無名の俺に失うものは無い。
ただ、特攻すれば良いのだ・・・
 
3ターン目
 
に。
 
 
・何を出すか?
 
ハキリの踏み倒し能力は強力だ。ハキリを出した次のターン、マナを払う正規ルートでクリーチャーを展開しつつ、ハキリが殴って1点を取るついでに、更なる展開が可能となる。
ハキリを含む3体が同時に殴り掛かる様相は、相手にとっては脅威以外に何者でもないだろう。
 
だが、デュエマの世界には「召喚酔い」という大きな制約が存在する。
数を並べるだけでは、ただクリーチャーが棒立ちするだけで1ターンが無常に過ぎ去る。
つまり、ハキリで出すべきは、
 
「スピードアタッカー」
 
ということになる。
 
 

・矛盾

 

ここで大きな矛盾にぶち当たる。

スピードアタッカーの多くは4コスト、通常は4ターン目にしか出せない。

3ターン目に出すにはマナ加速が必要だが、ハキリ自身にマナを増やす能力は無い。

すぐに思いついたのは、

 

2T:ハキリ召喚

3T:ステップル召喚→ハキリアタック時、バクチックorピッチャコーチGR→GRクリーチャーにサンマックスを重ねて3点

 

という動きだ。

悪くはない。計4体展開して4点。4Tでトドメを刺すには、十分な展開量と言えよう。

ヴェルデ+デッドダムドの脅威に打ち勝つには、破壊を上回る展開で対抗するしか無い。

 

だが、「ハキリ・ステップル・SA持ち」の3体を揃えた割には、4点を与えるだけというのはしょぼ過ぎないか?

例えば赤単ブランド相手に4点与えて終了というのは、返し殺してくださいと言わんばかりの非常に甘えた動きだ。デッドダムド相手でも、ヴェルデの上にダムド2体で3体処理、4Tの仕掛けにハヤブサマルで打点を大きく削られることは容易に想像できる。

 

現実の引きの制約で、4点与えて終了となるのはやむを得ないが、最大値を引き上げておかないと、より高い勝率は望めない。

何より、「3Tジャスキル」程度の破壊力を出せずして、ハキリを追加する意味は見いだせない。

 

これは、「ハキリ」と「速さ」の魅力に取り憑かれた、一介のプレイヤーの"脳内妄想録"である・・・

 

 

3.ハムカツマン

 

9月15日

 

新弾のカードの情報がある程度出揃い、また3連休で時間を取れることから、プロキシを使って新弾デッキの構想を練っていた。

複数の候補の中には勿論、赤緑サンマックスも含まれていた。

だが・・・どうもしっくり来ない。

 

3ターン目にたったの4点。攻めに全振りをしている構築の割にはパッとしない。

現実的な引きのラインでは、ハキリが使われることは無く、ステップル→4コスSAの既存の流れが繰り返される。

 

「これなら赤白でええやんけ」

 

再び日の目を見つつあった赤緑サンマックスは、再びデッキケースの奥にしまい込まれたのであった。

 

 

9月18日

 

新弾一発目、決定打となるデッキもなく、とりあえずダムドで様子を見るかと思いつつも、諦め切れなかったのか、「ハキリ」「サンマックス」「スピードアタッカー」と検索ワードを打ち込んで、突破口を探していた。

誰も赤緑型には見向きもしていなかったが、収穫はあった。

「ステップル→マンガ城(緑GR+Wブレイカー)」に次ぐ、新たな3Tジャスキルルートの開拓である。

 

 

「あぁ、初期のサンマックス活用案で見た気がしないでもないな・・・」

 

他の検索結果と同様、最初は大した感想を抱かなかった。

だが、テキストを落ち着いて読むと、そこには"ハキリの相棒"となりうる可能性が詰まっていた。

 

「緑の3コスト」

「スピードアタッカー」

「出現時マナブースト」

 

何もかもが噛み合い過ぎていた。

 

2T:ハキリ召喚

3T:ハムカツマン召喚(4マナに増加)→ハキリアタック時にゴルドーザ召喚→ハムカツマンアタック時にサンマックスを乗せる

(結果)ハキリ1点、ゴルドーザ2点、ハムカツマン3点

 

「新たな3Tジャスキルルートの開発」

 

1つのデッキを使うのに、十分な理由と言えるのではないだろうか・・・?

 

落ち着いて考えてみると、ハムカツマンの利点は多い。

 

・トレジャーマップで回収可能で揃えやすい

・アドを取って手札を温存できるため、ハンデスに僅かながら耐性が生まれる

・スピードアタッカーが増やせるため、僅かに打点が足りない時、トップ打点要求となった時に引ける可能性が高まる

 

しかし、ここで新参プレイヤーならではの大きな問題が。

 

「持ってない」

 

見つけづらい昔のカードは通販で探すのが板だが、閃くのが遅すぎたせいで、今から注文しても新弾発売には間に合わない。
 
「まぁ、店をちょっと漁ればすぐ見つかるだろ・・・」
 
甘い皮算用はすぐに現実に裏切られる。
 
 
・9月21日
 
新弾発売日。使い道も分からぬまま、誰かが悪用するという期待を込めて「パーフェクトネイチャー」を秒速で買い集める。
新弾カードの相場を見つつ、ついでにハムカツマンを求めて池袋のカドショを回るも見つからず。
 
午後。「きなこプロジェクト」という謎イベントの招集を受けて立川へ。
遠くの地のセレモニーに赴いた主催者を待つ中で、やはりカドショを探し歩く。
 
小さなショーケースしかない店なら諦めが付くが、タブレットで検索できる店、ショーケーススペースが多い店を見かけると、ついつい期待が高まってしまう。
多色コーナーを見つけるのにも慣れた。
だが現実。
 
 

ハムカツと言えばこの1枚。

Sトリガー持ちというだけで採用価値は跳ね上がる。

当然ながら、大抵の店にあった。

 

 

「おっ、見つけた!!!」

 

・・・とはならない。

このハムカツマン、類似カードが非常に多い。

見かけに踊らされず、きちんとテキストを読まねばと心得ていた。

 

店を回れど回れど、在庫があるのは「ハムカツマン剣」や「ハムカツマン蒼」ばかり。

裏で誰かが買い占めているのかと邪推する程に、「ハムカツマン」は見つからない。

 

翌日のCSに暗雲が立ち込めるまま、きなこプロジェクトに向けて知り合い宅へ。

若い衆に混じり、デュエマ、ウィクロス、果てには遊戯王の04環境と、久々のオールを愉しんだ。

プロジェクト自体はロクに進まないなりに、非日常を満喫していた。

自分の歳を考え、途中で床に寝転がって軽い休息を取ったが、

 

「ライフ6000・・・」

 

という謎の寝言を発していたらしい。

ダムドの方が安定するし、もうハムカツマンはいいやと諦める気持ちを持ちつつも、諦めきれない感情が合わさり、謎の寝言に至ったのかもしれない。

 

 

・9月22日

 

CS当日。

周りはウィクロス学園祭一色だが、サボっているゲームの会合に出るのはどうも躊躇われる。

新弾発売直後でGPを控えていること、ウィクロスはラティナが参戦してからが本番であることを考慮し、始まりの地「馬場ロコ」のCSに行くことにした。

 

知り合い宅から一旦帰宅し、デッキシートなど、CSの準備を整える。

そしてまずは秋葉原へ。

「オタクの聖地」は、俺をハムカツマンに導いてくれるのだろうか・・・?
 
午前10時。
御茶ノ水で降り、洞窟を経由してラジ館に向かういつものルート。
今までの挫折の流れから、洞窟だけでハムカツマンが見つからないことは容易に想像できた。
だが、ラジ館には多くのカードショップが立ち並ぶ。
見つからぬカードなど、あり得まい。
 

1店舗、また1店舗・・・

多色コーナーに並ぶ類似カードに絶望は積もるばかり。

そう、ラジ館を以てしても、ハムカツマンを見つけることは出来なかったのだ。

 

午前11時。

受付時刻が迫る中、俺は最後の一店舗に全てを託すことにした。

 

「カードキングダム」

 

オタクの聖地にそびえる王国。

過去カードのバインダーを恐る恐る開いてみた。

 

 

ハムカツマンのページ。

カードが存在するだけでは足りない。

「売切中」の残酷な3文字があるだけで、最後の希望は潰えてしまう。

 

・・・が、在庫はあるらしかった。

道は拓けたか・・・?

レジに行き注文。まだ在庫が1枚だけという可能性はあるから、油断はできない。

だが、今までの苦労が嘘のように、一瞬で4枚集まった。

 

本当に最後の最後で、見事逆転勝利を収めたのだった。

 

そして遂に、新弾最初のデッキ「赤緑サンマックス」が完成した・・・!

 

 

右半分、スピードアタッカーに絡むカードは計18枚。

文句なしの速攻、いや特攻デッキと言えよう。

 

それと同時に、トレジャーマップで拾えるヤドック(対ロマノフ)、種ディスティニー(対青魔道具)と、枚数は絞りながらも環境デッキへの勝ち筋も残している。

特攻デッキの競合「赤単ブランド」との比較では、ミクセルに屈しないという強味がある。

 

CS結果は4-3予選落ちであったが、ハムカツマンを出す度にテキストを確認され、相手の意表を衝けたことには自己満足している。

クラッシュ覇道やVV-8の追加ターンという保険に頼り続けた自分にとって、素の打点で特攻するというスリルはこの上無く堪らなかった。

 

「ゲームは楽しむことが第一」

 

構想、創作、実戦の過程の全てに充実感を覚えながら、筆を置くこととしよう。