夏の終わり。
今年もこの季節を迎えた。
祭りは祭りでも、特別熱い「血祭り」だ。
6回目の参加。
思えば昔、初参加の時からすっかり変わってしまった。
純粋に激辛に立ち向かい、挫かれ、それでも挑み続けた夏。
振り返っても見えないくらい遠くに置いてきた過去を振り切る。
数々の激辛"デス"マッチを潜り抜けてきた俺にとって、求める物は無いかもしれない。
だが、向かうのだ。懐かしい舞台がそこにあるから・・・
・1品目「麻婆豆腐」
まずは1品目。最初は穏やかな辛さから・・・などという気遣いは無用で、一番上の"超辛"を注文。
このような虚構の激辛に屈するほど、やわな鍛え方はしていない。
まずは一口。俺の中に、後悔の念が広がった。
「あ、味がしねぇ・・・」
ただの豆腐が口へ運ばれていく。
後、何やらじゃりじゃりした食感が。
「あぁ、香辛料か。」
何も感じない。
そう、何も・・・
・2品目「担々麵」
いつも箸休めに使う2品目だが、今回は担々麵を選択。
理由は単純。
炭水化物が食べたかった。
しかし残念。中辛と激辛しか無い。
「激辛は甘口」
おわり。
・3品目「100倍ホルモン」
「全く痛みを感じない・・・ふっ、所詮現世に、俺を殺せる奴など居る訳がないか。」
「・・・」
何も答えない。
「しょうがねぇよなぁ?食フェスなんてふざけた連中の溜まり場、殺人的な辛さを持ち込んで死人が出たら大変だもんなぁ?」
「・・・」
やはり何も答えない。
「知ってるか?辛さ100倍って言っても、0に100を掛けても0のままなんだぜぇ!?」
「・・・」
答えない・・・が、動きを見せる。
「!?」
舌に痛みが走る。
どうやら、圧倒的耐性で制圧できた連中とは一味違うようだ。
やはりラスボス、そうこなくっちゃなぁ!???
一合、二合、三合。
俺の舌とホルモンの辛さが打ち合う。
歯ごたえのあるホルモンは、容易に飲み込ませてはくれない。必然的に長期戦になる。
十合、そして二十合。
徐々に手ごたえを感じる。
歴戦の舌が敵に適応し始め、辛さを制圧し始めたのだ。
順調に食べ進める。
100倍の辛さと言っても、所詮はこの程度か・・・
残り2つに至った刹那、
「!???」
舌全体と喉から、一気に痛みが走る。
「バックドラフト」
制圧されていたのではない。
制圧された「ふり」をしていたのだ。
密かに辛さを全体に広げ、好機と見るやいなや、一気に辛さを爆発させてきたのだ。
俺は思わずむせ返る。
だが、こういう時の対処は知っているつもりだ。
お茶を口に含む。
天を仰ぐ。
息を吸う。
「こんなことで死ねたら、苦労しねぇよなぁ・・・」
痛みが引いていく。
渾身の辛さの一撃も、ダウンを奪うまでには至らなかった。
更に耐性を強化した俺は、ラストスパートで食べ進め、
「おわった・・・」
現世でも、俺を愉しませてくれる奴は居る。
その事実に満足しながら、俺は夜の新宿に姿を消していった。