11月1日 放課後
今日もいつも通り授業を終えて帰宅。
相変わらず「オチ0個」とかからかう男子も居たけど、ほとんどの人はいつも通りの様子だった。
おとなしい私に話しかけてくる人は居ない。
平和になって良かったと思う反面、ずっとこのままでは良くないとも思う。
卒業まであと少し、みんなと仲良くなる"きっかけ"を作るため、今日その一歩を踏み出そうとしている。
「れいちゃーん、一緒に帰りましょー!」
基本的に誰にも話しかけられない私だが、例外もある。
「ねっ、帰りましょ!」
この子は研すみれちゃん。とある出来事がきっかけで仲良くなった。
明るい性格だが、真面目な子で、口調が丁寧だ。
女の子同士は下の名前で呼び合うが、この子は苗字の方が呼びやすいので「けんちゃん」と呼んでいる。一方私は玲子なので「れいちゃん」と呼ばれている。
帰る方向が同じなので、いつも一緒に帰っている。
「れいちゃん!今日は遊んで帰りません?見損ねたと言っていた昨日のドラマ、録ってありますよ!」
「今日はちょっと・・・」
「どうしたんです?」
けんちゃんになら話してもいいだろう。
昨日の出来事、おばあちゃんの話、24日の学級会のことを色々話した。
「確かに昨日の男子の反応は許せなかったです。ヒドイですよね!」
「あんなのは放っておけばいいけど、私自身がこのままでいいのかと思った。なぜおばあちゃんが落語の話をしたかは分からないけど、私が変わるチャンスな気がする。もっと積極的な私になって、もっともっとみんなと楽しい思い出を残したいなぁって。」
「れいちゃんなら出来ますよ!楽しみにしてます!!!」
「今日もおばあちゃんの説明を聞く約束をしちゃったから、今日はごめんね。」
「大丈夫です。頑張ってください!」
「おばあちゃーん、帰ったよー」
「おや、玲子かい。早いねぇ。」
「すぐに練習したいから、早く説明を聞きたくって。」
「それは嬉しいねぇ。なら早速始めようか。」
「ねぇおばあちゃん、まず落語には何が必要なの?」
「着物と座布団、後は扇子と手拭いじゃ。落語芸術協会のHPに説明があるから、後で見ておくと良いぞ。」
「はーい。」
おばあちゃん、意外とネットに詳しいのね。知らなかったわ。
後、リンクを貼って説明を補足できるのはネット小説のメリットよね。
さすが作者さん、よく考えているわ。
作者さんって何のことかさっぱりだけどね!
「ねぇ、着物は着るし、座布団は敷いて座るのは分かるんだけど、扇子と手拭いって何に使うの?」
「着物を着ていると暑いじゃろ。扇子で風を送り、手拭いで汗を拭くんじゃよ。」
「なるほどねー」
「待て待て、今のは冗談じゃ。扇子は箸や刀や筆、手ぬぐいは本や手紙、財布に見立てて使うのじゃ。この2つで色々なものを表現し、実際にあるようにお客さんに想像してもらうのだよ。」
「私にも出来るかな?ねぇねぇ、どんな感じにやるの?」
「私がやるのは恥ずかしいから、動画で勉強して真似してみなさい。」
「えー、ざんねーん。見たかったなー」
着物に座布団、扇子に手拭いか。
着物は初詣に着たのがあるし、座布団くらいは先生に聞けば学校に置いてありそう。
扇子と手拭いはちゃんとしたのを持ってないけど、今月ピンチなんだよね・・・
「ねぇねぇおばあちゃん、扇子と手拭いって持ってない?」
「古いもので良いかねえ?」
「ありがとう!借りてもいい?」
「いいとも。これで高座に立てるかね?」
「おばあちゃん、"こうざ"って何?」
「高く座ると書いて高座。お客さんが座るのが平座で、演者はそこより高い所に座って話すのじゃよ。」
「ふーん。まぁ後は、昨日聞いた寿限無をいっぱい練習して、ちゃんと覚えたら出来そう!」
「玲子や。落語の噺の流れは知っておるかね?」
「えっ、前に聞いた寿限無をずっと話して終わりじゃないの?」
「途中からはそうなのじゃが、初めに"枕"という導入の話があるのじゃ。」
「今日はみんな来てくれてありがとう!みたいな?」
「それもあるが、この枕も話の面白さの1つなのじゃ。例えば寿限無は産まれた子供に名前を付ける噺じゃろう?そこで子供の名付け方に関連して、キラキラネームの話をするのも1つ。」
「光る宙と書いて"ぴかちゅう"とか?確かにそういう話があると面白いし、噺にもすっと入っていけそうね。」
「古典だと噺の流れが一定になりがちじゃが、枕には演者の個性がよく出る。そこから噺の中身に入り、最後にオチにつなげるまでの流れを作れるかが、演者の腕のみせどころなのじゃ。」
「分かった!何を話すかも考えてみる!」
"枕"・・・か。
ただ演じるだけじゃ面白くないよね。
私にもオチのある話ができるんだ!って示すためにも、どういう枕にするのか考えなくっちゃ。
そういえば、寿限無にはオチのパターンが色々あるみたいだけど、私はどのオチにしようかな?
いや、ここもいっそ私のオリジナルにしたら面白いかも・・・?
練習しながらそんなことを考えていたら、もう朝になっていた。
あーもーねむーい。。。