本棚の隅に「庭仕事の愉しみ」(ヘルマン・ヘッセ)を見つけた。20年ほど前に書店で気になって買ったが、読まずにそのまま本棚に仕舞ったままにしておいたものである。仕事を辞めて庭仕事の真似事をはじめて、題名が気になり取り出して読んでみた。ヘッセは、20代で作家としてデビューし、スイスでの田舎暮らしを85歳で亡くなるまで続けた人である。 最初はボーデン湖畔ガイエンホーフェンの空家になっていた農家で次はベルン郊外、最後はカサ・カムッツィというところだ。いずれも景色の良い所である。 30歳のころから50年間作家活動の合間の庭仕事が生活の一部になっていた。日本ならさしずめ信州で田舎暮らしをしながら作家活動をつづけるようなものかもしれない。
50代でカサ・カムッツィに終の棲家を手に入れたヘッセはこう語っている。
「どこかにわが家をもち、1区画の土地を愛し、耕して植物を植え、ただ観察したり絵に描いたりするだけでなく、農民や牧人のつつましい幸福をともに味わい,二千年来不変のウェルギリウスの農事暦のリズムに参加することは、私自身、かってそれを経験し、自分が幸せになるにはそれでは不十分だとわかっていたにもかかわらず、私には、すばらしい、うらやむべき幸運のように思われた。するとどうだろう。このすばらしい幸運がもう一度私に与えられたのだ。」
ヘッセには較ぶべくもないが、軽井沢か信州のどこか景色の良い所での田舎ぐらしを、連日の暑さの中夢想する。
