身体や精神上の障がいにより、自ら性行為や自慰ができない人のために、介助や性行為を提供する人たちに取材した本です。
出版は2004年で、私は知らなかったのですが、当時はかなり話題になった本のようです。
障がいのある人、そこにサービスを提供する人、双方が登場します。
表には出ないけれど、障がい者の介助者の間では性的な介助も常識だった、という話もなされています。
思えば当然かもしれないものの、やはり衝撃があります。
関係する人たちの発言や行動にはどれも建前ではない切実さがこもっていて、苦しくなります。
たとえば、先天性股関節脱臼という障がいのため、外出できずにほとんど引きこもって暮らしている女性が登場します。
彼女は一切異性経験がありませんが、そんな自分でも性体験がしたいと考え、出張ホストによる売春を定期的に利用しています。
両親と住む自宅に彼を呼び、一緒にお風呂に入り、性交するといいます。
その日のために彼女は一日中、ネイルをし、外出できないのでネットで研究したメイクをします。
彼女は一生恋愛も結婚もしないといいます。
自分は何もできず、好きな人に一生車いすを押してもらうのは耐え難いといいます。
そうしたサービスを提供する事業者はごく少数のようです。
上記の女性が利用する店は、障がい者割引(通常の半額)を設定している、大変珍しい事業者です。
オーナーの男性は、「出張ホストなどあまり誉められる仕事ではないが、少しでも社会の役に立てればと、人生の帳尻合わせをしている感じでやっている」といいます。
障がい者利用の場合、料金のうち店の取り分はゼロだといいます。
そのほか、そうしたサービスをボランティアで提供しようという人たちも存在しますが、日本で定着しているとは言い難い。
そうした活動が困難であろうことは容易に想像できます。
こうして、この問題は存在しないものとされ、しかしその問題に関わらざるを得ない人たちのボランティア精神と悩みの中でのみ扱われてきました。
障がいがあっても、性欲はあるのは当たり前です。
この本を読んでいると、性の問題は、本質的にはそれ以外の問題と変わりはなく、現状で障がい者が諦め、手放さざるを得なかい多くの「当たり前」の中のひとつにすぎないことを知らされます。
それは、生きていくうえでの必要不可欠なもののひとつにすぎず、ただ、性という、公に語りづらい問題だから隠されてきただけです。
「食欲・性欲・睡眠欲」が人間の三大欲求と言われます。
生きるうえでの最も基本的な欲求なのに、どうしてか、性欲に関することは、いつまでたっても真剣な議論の対象になっていないし、ぞんざいに扱われていると思います。
食事も睡眠も人間が健康に生きる重要な要素だと喧伝されているのに、性はそうではない。
性が、出産やパートナーシップという人間の非常に重大な問題に直結していることはみんな知っているのに、なぜか今でも日陰でこそこそと扱われている。
ただ、性の問題特有の難しさは、やはりあると感じます。
日本では、性的関係は特別なパートナーとの間でのみ許されるという倫理観が一般的だと思うので、サービスの提供者、受け手、それ以外の関係者の全てに相当の葛藤を生じさせると思います。
一般に「愛情と性欲は別もの」のように言われるけれど、実際にはそれは連続していて、割り切れません。
だからこそ、相手から拒絶されれば自分自身を否定されたように傷つくし、相手が他の異性と性的関係を持てば、裏切られたように感じて傷つきます。
相手から「愛情はそれと別問題だ」と言われても、傷は癒えません。
障がい者としても、単に性欲処理を求めているのではありません。
健常者と同様、本当は普通に恋愛や結婚をしたいだけです。
でもそれが困難な場合に、健常者であればとれる選択肢が、障がい者にはないことが彼らを苦しめます。
出版から20年近くが経過した今でも、状況は大して変わっていないように思えます。
助けが必要な人たちは、現在でもたくさんいるでしょう。
この本は、強いインパクトを持つ題材を取り上げてはいますが、おのずから障がいと性のいずれについても本質的な問題点を突き付けられます。
著者は1974年生まれとのことなので、出版時まだ30歳くらい。
自分が30歳だったころを思うと、そんな若さでこのような困難な取材をして本をまとめられたことに、頭が下がります。