著者のことは全く知らなかったのですが、村上春樹が同じ著者の『よい戦争』について紹介していたため、興味を持ちました。
ターケルは、特定のテーマについて、著者自身が語るのではなく、様々な階層の人々への膨大なインタビューによって語らせる「オーラル・ヒストリー」と呼ばれるやり方で作品を書いたそうです。
村上春樹が『アンダーグラウンド』でやりたかったことも同じ、とのこと。
この本は単行本で約600ページ、先日出た文庫版では上下巻で計約800ページと、大部の本です。
医師、聖職者、退役軍人、元ギャング・・・
様々な人々が語る、生死と信仰についての言葉のリアリティと厚みに圧倒されます。
読書好きを自認しながら、こんなすごい本のことを全く知らなかったとは・・
自分の読書体験なんていかに貧弱なものなのか、またも痛感しました。
邦題は
『死について! あらゆる年齢・職業の人たち63人が堰を切ったように語った。』
ですが、この本では、死と全く同じ重みでもって、各人の信仰について述べられています。
原題も
“Will the Circle Be Unbroken: Reflections on Death, Rebirth and Hunger for a Faith”
なので、直訳すると「輪は途切れないのか:死、再生、信仰への渇望についての考察」みたいな感じでしょうか。
「輪」の意味はいろいろ考えられます。
作中でも、人は死んでも他者の中で生き続けるという人、天国へ行くという人、輪廻転生するという人、いろいろです。
ただ、多くの人は、何らかの形で自分が存在し続けると感じているようです。
「輪」はそれを広く含む意味なんだと思います。
邦題はやや内容からずれているように感じますが、著者には『仕事!』という邦題の代表作があるようなので、それに合わせたのだとは思います。
多様な人のインタビューが収められていますが、黒人、同性愛者、HIV感染者など、社会の中でマイノリティーと言われることの多い人々のインタビューが多い印象です。
著者の晩年の作品(刊行時、著者は88歳だったそう)なので、それまで著者が培ってきたつながりがある人々がそうだったのかもしれないし、そうした人たちのほうが、生死について真剣に考えざるを得なかったのかもしれません。
この本には63人分の全く異なる人生が収められているので、内容を要約することは不可能です。
そして、当然ではありますが、人々がどれほど語っても、死が何であるかは、わかりません。
わかるのは、誰もが必ず死ぬこと、美しい死もあれば悲惨としか言えない死もあること、
それと、人はどんな死についてであっても、軽々しく扱ってはならない、尊厳あるものと感じることは、間違いないようです。
その意味でも、人の死を「損耗」と表現する戦争は、非人間的というしかないと感じます。
この本から受け取ることは本当にたくさんあるのですが、また個別に書いていこうと思います。