『サピエンス全史(上・下)』(ユヴァル・ノア・ハラリ著) | 今日も花曇り

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ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグも絶賛との宣伝文句で、少し前にかなり話題になった本です。

遅ればせながら読みました。

きっかけは、『世界は贈与でできている』(近内悠太著)を読んだ際、歴史についてのすぐれた一般書として紹介されていたことです。

 

題名は重々しいですが、一般向けに書かれていて面白く読めました。

 

人類史ではなく「サピエンス史」なのがポイントで、複数の種が存在した人類のなかで、他の種を滅ぼして唯一生き残った人類であるホモ・サピエンス(私たち)の歴史を書いています。

 

私は歴史に疎くてほとんど知識がないので、この本で紹介されているたくさんの事実、エピソードや考察は、どれも「そうなのかあ!」と興味深く読みました(ただ、私自身はどれが既に一般的な知識でどれが筆者独自の説なのか、判断する力がありません)。

 

具体的には、私がなるほどなあと感じたり、そうだったのかと思ったのは

 

・種の発展は、個人の幸福とは関係がない

・サピエンスは古代においても自然と共存していたわけではなく、移住先で多くの生物を絶滅させ続けてきた危険な種である

・科学革命以前には、将来が現在よりも良くなる(進歩)、という考え方自体がほとんど存在しなかった

・数学は、比較的最近まで、教養ある人々さえ稀にしか真剣に勉強しない分野で、中世ヨーロッパの教育の中心は論理学、文法学、修辞学で、学問の王様は神学だった

 

などの記述でした。

 

この本がどんなことを述べているかは、すでにたくさんの解説があるし、訳者あとがきにも要領よくまとめてあるので、そちらに譲ります。

 

ただ、この本全体について正直に言えば、特に何も感じませんでした。

素晴らしい本を読むと、自分が前より高められた気がします。

もっとよく生きられる勇気が出ます。

でもこの本は、そういう類の本ではないようでした。

書いてあることは面白いので、誰かに話したら「へえー」と感心してもらえるかもしれませんが・・・。

 

個々の記述はとても興味深いのに、なぜなんだろうと、読み終わって自分でも疑問でした。

改めて考えてみると、たぶん、著者のような態度が、私が基本的に嫌いだからのようです。

こんな記述があります(引用長くてごめんなさい・・・)。

 

「人生を分刻みで逐一査定すれば、中世の人々はたしかに悲惨な状況にあった。ところが、死後には永遠の至福が訪れると信じていたのならば、彼らは信仰を持たない現代人よりもずっと大きな意義と価値を、自らの人生に見出していただろう。(中略)

では、中世の祖先たちは、死後の世界についての集団的妄想の中に人生の意味を見出していたおかげで、幸せだったのだろうか?まさにそのとおりだ。そうした空想を打ち破る者が出ないかぎりは、幸せだったに違いない。これまでにわかっているところでは、純粋に科学的な視点から言えば、人生にはまったく何の意味もない。人類は、目的も持たずにやみくもに展開する進化の過程の所産だ。(中略)

人々が自分の人生に認める意義は、いかなるものもたんなる妄想にすぎない。(中略)

それならば、幸福は人生の意義についての個人的な妄想を、その時々の支配的な集団的妄想に一致させることなのかもしれない。」

(第19章 文明は人間を幸福にしたのか 人生の意義 より)

 

でも、妄想だ、と言ったところで、人が生きる意義を求めることは変わらない。

妄想だ、と言ったところで、妄想する主体(私たち)の存在理由の説明にはならない。

科学は、科学(物理)法則自体の存在理由を説明することはできない。

筆者のような態度は、世界の不合理さと不思議さについての謙虚さに欠けると私には感じられました。

 

でもまた考えてみると、これだけ頭のよい人ならそんなことくらい気づいているでしょうから、何か、人生や世界の絶対的な意味を「妄想だ」と否定したくなるような、切実な出来事があったのかもしれない、とも思います。

考えすぎでしょうか。わからないですが・・・。

 

著者の独自性が最も発揮されているのが第19章「文明は人間を幸福にしたのか」と第20章「超ホモ・サピエンスの時代へ」だとすると、著者は歴史家というより、哲学者、予言者として振る舞いたいのかもしれません。

でも私は上のような点で違和感があるため、素直に読むことはできませんでした。

 

この著者には、さらに「ホモ・デウス-テクノロジーとサピエンスの未来」と、「21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考」という、「サピエンス全史」をさらに推し進めた内容の著書があるらしいので、それも読まないといけないと思っています。

 

最後にですが、この本は人類の歴史全体というより、著者の歴史観にとって重要な点のみ、しかも個々の史実の詳細よりも、その意味づけや大きな流れの説明が中心です。

原題も「SAPIENS: A Brief History of Humankind」 ですし、「全史」というとちょっと大げさで、「略史」「概史」という方がよいのではないか、と感じました。