Yahoo!ニュース特集 「無脳症」のわが子を宿して | 今日も花曇り

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「無脳症」のわが子を宿して 突如、妊婦健診で知らされる苦しみ

妊娠した子が無脳症だった場合の、当事者である親や、医療関係者の話をもとにした記事を読みました。

妊娠中に無脳症がわかった場合、当然のように中絶を勧められるそうです。
記事を読んで一番衝撃を受けたのは、それでも生むことを望んだ母親が複数の病院で断られ、とうとう受け入れてくれる病院を探し当てたときの病院の言葉でした。

「あなたと息子さんのベストな日にできるよう最善のチームを組みます」

無脳症の子は、脳がないので、生まれてもすぐに亡くなるそうです。この病院は、自分たちの医療行為が無駄に終わることをわかっていて、しかも間違いなく深刻な傷を負う親の精神的ケアという非常に重い負担を、あえて引き受けたのでした。

一方で自分を省みると、そんな医師らの精神からかけはなれた姿勢で仕事をしている自分に気づいて、深く失望します。
今の私は、弁護士としてできることがなさそうな案件は、基本的にお断りします。また、法的トラブルを抱えた方は精神面でのケアを要する方も多いのですが、そのために自分が大きな負担を強いられそうな方の件は、できるだけ受任したくないというのが、率直な気持ちです。
前者は、いわゆる「筋が悪い」案件で、依頼者のお金も、弁護士の労力も無駄になる可能性が高いためです。
後者は、いわば自分のメンタルを守るためです。

でも、無駄でもなんでも、弁護士に八つ当たりしながらでも、とにかくそれをやらなければケリがつけられない人、案件もあります。
本当は、そうしたものも、余裕がある限りは受けたいです。今も、断りきれず、受けてしまうことがあります。
でも、もともと余裕のない業務の中でその案件が他の案件処理を圧迫し、結局はいつも自分が後悔します。
筋が悪い案件というのは主張を組み立てるのに手がかかりますし、依頼者の性格や精神に難があるときも、その対応で通常の数倍の時間を食ってしまいます。

毎日10時間、月に20日働くとして、手持ちは200時間。案件が30件あれば、1件あたり6時間半くらいしかありません。
この中で、依頼者と打ち合わせ、事案を検討し、書面を書き、裁判所へ出かける一方、合間に新規の相談に応じ、事務所内の会議や事務もしなければなりません。

依頼者は自分の人生の一大事の電話に1時間使うのも当たり前かもしれませんが、弁護士としてはその電話のためにその依頼者の案件処理ができなくなっては本末転倒です。
でも、「今月のあなたの案件のための持ち時間はもうなくなりました」とは言えないので、他の案件処理のための時間を削るか、睡眠時間を削ることになります。
手が回らなくなり、依頼者も「弁護士は自分の件は後回しにしているのではないか」と感じたりし、不満が残ります。

時間に余裕があれば、その手の案件をいくつか持つことも可能なのかもしれませんが、今の私は、結局自分を苦しめて後悔するだけです。

依頼者にとって納得のいく仕事を提供し、さらに自分と事務所のために利益をあげ、そのうえ自分のプライベートも充実させるなんて、今の私には神業のように感じます。