離婚でよくあるケースで、妻が子どもを連れて突然家出してしまうことがあります。夫はそれ以後子どもに会えず、何としても子どもに会いたい、子どもを取り返したいといって相談に来られる方も多いです。
夫にはどんな手段があるでしょうか。
実は、今の法律上の手続では、子どもを取り返すことは非常に困難です。一応手段としては、監護者の指定と子の引渡しを求める調停又は審判の申立ということになります。しかし、既に母親の下で生活している子を父親に引渡すことについて、裁判所はとても消極的です。母親が暴力的な手段で子を奪っていったとか、母親の監護能力に大きな問題がある等の事情がない限り、裁判所の結論は「現状維持」が圧倒的に多いです。
そして、子どもを取り返すどころか、子どもに会うことすら容易でないのが現実です。母親が子どもには会わせないという態度に終始する場合、法律的な手続としては面会交流の調停を申し立てることができます。
しかしこれも母親の態度が頑なな場合、調停は不調となってしまいますし、審判に移行しても、裁判所の判断に必要な調査官の調査を含めて審理に2、3か月はかかってしまいます。そのうえ、両親の感情的対立が激しい場合、裁判所は面会を認めるとしても内容についてはやはり慎重で、月に1回、1時間から数時間しか認められない場合が多いです。
こうした現実が明らかになるにつれ、父親は非常に激しい怒りを募らせることが多いです。なぜ自分も親権者なのに子どもに会えないのか、なぜ勝手に出て行った妻の責任は問われないのに自分が子どもを取り返すと違法になるのか、なぜ裁判所は妻の味方ばかりするのか。
時にはその怒りは自分が依頼した代理人弁護士にも向けられます。なぜ何もかも相手の言いなりなのか、あなたが無能だからではないのか、というわけです。
この困難さは、結局のところ、家族の問題と権力による解決がもともと馴染まないこと、つまり、何が子どもにとって最善なのかを第三者が判断することの難しさと、強制的な結果の実現(強制執行)の難しさからくるのではないかと思います。
離婚事件を扱っていて、一番弁護士の非力さを感じる場面です。