ブックレビュー「たゆたえども沈まず」 原田マハ | ネコのひとり言
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「たゆたう」とは、「物がゆらゆら動いて定まらない」という意味だそうです。
 
また「たゆたえども沈まず(Fluctuat nec mergitur)」 は16世紀から存在するパリ市の紋章にある標語とのこと。
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パリを船に見立て、船が揺れても決して沈まないという意味から転じ、「いつの時代も、どんな逆境に遭っても、パリは不滅だ」という決意がこめられているらしい。
 
本書ではゴッホが最後につぶやいた言葉として登場します。
 
 
「彼が一番描きたかったもの-それは、パリの化身・・セーヌだったんだ」と。
 
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そんなパリを愛した・フィンセント・ファン・ゴッホ(画家のゴッホ)と、彼の弟テオドルス・ファン・ゴッホ(通称テオ)との兄弟の愛憎を、日本人画商・林忠正と彼の店で働く加納重吉との交流を通して描いた物語。
 
兄の画才を信じ、生活面や経済面・精神面などで支える弟の献身ぶり、心情変化がていねいに描写されています。
 
有名な「タンギー爺さん」でバックに浮世絵を配置する構図は、テオがプロデュースしたということです。
 
小説なので真偽のほどは分かりませんが、物語の流れからはあり得ることだと思います。
 
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本書で興味を持ったのが林忠正という人物です。
 
東京大学を中退して明治11年に渡仏、明治17年パリに美術商を開業したと言うことです。
 
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浮世絵を初めとした日本・東洋美術品を扱うなかで、印象派の画家たちともはば広く交友し、当時盛行したジャポニスムに,日本美術紹介者として重要な役割を果たしたようです。
 
明治の初めにこんなにも進取の精神にとんだ人がいたとは驚きです。
 
パリ・浮世絵・ジャポニスム・日本・アルル等をキーワードに著者の美術史観も投入し、ゴッホの絵画に対する考え方の変遷がよく分かります。
 
★3.5