詩人吉野弘氏(1926-2014)の詩集を読んだ。吉野氏はなにげない出来事を分かりやすい言葉で語りかけた。有名な詩の一つは、結婚する男女に向けて作った「祝婚歌」。冒頭部分は以下の通りである。



「二人が睦まじくいるためには/愚かでいる方がいい/立派すぎないほうがいい/(中略)/完璧をめざさないほうがいい/完璧なんて不自然なことだと/うそぶいているほうがいい/二人のうちどちらかが/ふざけている方がいい/ずっこけているほうがいい(以下略)」 


この詩の内容には意表をつかれた。良好な対人関係を保つための一般的な心掛けと正反対である。考えてみれば、得意なことや苦手なことは各個人で違う。完璧な人間はいないと、誰しも頭では理解している。 


しかし実際の対人関係は理想的にはいかない。自分のことは棚に上げて、相手には完全を求め、関係が気まずくなる。 この詩は直接は若い男女に向けたものであるが 、高齢夫婦や親子にも十分当てはまるのではなかろうか。


「夕焼け」という詩も有名です。舞台は満員電車で若者と娘が座ってお年寄りが立っている。席を譲るべきかどうか。都会では ありふれた日常的な光景を舞台に、人の優しさについてそっと 問いかける。