クラシック 珠玉の名盤たち

  ベートーヴェン:交響曲第2番 ニ長調

Ne-dutch

● 聴き比べ(続き)

第11位:セルジュ・チェリビダッケ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団 1996年

優しくいたわるように開始される。序奏だけで3分44秒。時々止まってしまうかのような遅さだが、残響の長いガスタイクのフィルハーモニー・ホールの特徴を十分に計算し尽くした結果に狂いはない。チェリビダッケが自身の録音の発売を拒み続けた理由はわかる。この感動はホールでしか味わえないというのは事実であろう。しかし大丈夫。CDであってもライヴでの雰囲気を想像することは可能だ。それができない人はチェリビダッケを聴いてはいけない。第2楽章の天国的な美しさは自身に捧げたものか。第3楽章は、まるでこの曲の開始と同じように始まる。そして名残りを惜しむかのように流れていく終楽章、すばらしい。この演奏の2か月後、マエストロは84年の生涯を閉じる。合掌。

第12位:オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団 1957年
クレンペラーにとっては偶数番も奇数番もない。同じアプローチでアグレッシブに攻め込む姿勢は誠に潔く、カッコいい。全曲を通してクレンペラーの魅力に圧倒されるが、注目したいのは第2楽章。切り裂くような弦楽器に強烈な打楽器。第2主題で少しホッとするのも束の間、展開部では恐怖におののく。1957年とは思えないほど録音状態が良い。一部乱れはあるものの、分厚いサウンドを鮮明に再現しており、クレンペラーの世界観を共有できるのは素晴しい。

第13位:カール・シューリヒト/パリ音楽院管弦楽団 1958年
第2番は、第1楽章の序奏が長いのが特徴だが、シューリヒトは決して弛緩することなく、むしろ緊張感を高めながら主部へと繋ぐ。第2楽章のコーダで、まるで慈しむようにテンポを落とすところは、名人芸が際立つ。快速の第3楽章、第4楽章と切れ味鋭く進んで行き、爽快に締めくくる。

第14位:フランツ・コンヴィチニー/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1959年
実に深みのある演奏である。古色蒼然たる響きの中に、我こそは正統なドイツ音楽の体現者だという自負が覗える。第1楽章と第2楽章の展開部、きびきびとした動きが心地良い。終楽章は、速めのテンポが、らしくないが、渋さの中に明るさが垣間見える演出がすばらしい。コンヴィチュニーを聴いていると、ベルリンの壁建設前の東ドイツは、どんな雰囲気だったのだろうと思いが巡る。

第15位:ヘルベルト・ケーゲル/ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 1983年
第2番の特長をよくおさえたオーソドックスな名演。初めてこの演奏を聴いてケーゲルだと当てるのは困難であろう。渋めの色彩の中で、存在感のあるティンパニーの響きに、ケーゲルらしさが垣間見れる。

第16位:フランス・ブリュッヘン/18世紀オーケストラ 2011年
緩急のつけ方が特徴的。これが当時の演奏スタイルだと言われても、誰も証明することはできないが、愉しく心地良いサウンドであることは確か。すでに19世紀に入っているのだが、さらに時代を先取りしたベートーヴェンの作品を、当時の聴衆が、期待に胸を踊らせながら迎えた様子が垣間見えるようだ。特に第3楽章と第4楽章は古楽器の特徴を活かしきったすばらしい演奏。

第17位:ニコラウス・アーノンクール/ヨーロッパ室内管弦楽団 1990年
「歴史的演奏」というジャンルではブリュッヘンと一緒なのだが、同じ楽譜を同じスタイルで演奏してもこんなに変わるものなのか。もちろん楽器の違いだけではない。特に第3〜4楽章がリズミカルで愉しくて仕方ない。ナチュラル・トランペットが実に効果的だ。小規模編成だけに音がくっきりとした輪郭で奏でられるのも良い。