クラシック 珠玉の名盤たち

  ベートーヴェン:交響曲第1番 ハ長調

Ne-dutch

● 聴き比べ(続き)

第11位:カール・シューリヒト/フランス国立管弦楽団 1965年

シューリヒトらしい爽快な演奏。特に第4楽章のきびきびとした弦楽器の運びに惹かれる。シャンゼリゼ劇場で第九の前プロとして演奏されたもので、そのままの形でCD化されたことがすばらしい。ライヴの実況録音でありながら鮮明な録音状態なのはうれしいが、聴衆はよほど興奮したのか最後の拍手のタイミングが早すぎる。


第12位:カール・シューリヒト/パリ音楽院管弦楽団 1958年

フランス国立管盤とは対照的な演奏で、テンポの緩急のつけ方に魅力を感じる。第4楽章について、宇野功芳氏の「響き自体がやや粗く、緻密さに欠ける」との指摘は言い過ぎであろう。迷うところだが、ステレオ録音のフランス国立管盤を上位とする。

第13位:ブルーノ・ワルター/コロムビア交響楽団 1958年
最初の1音は優しく、次はやや強く、そして徐々に力強さを増していく。こういう開始の仕方、好きである。第2楽章は、ワルターの魅力が全開だ。魅惑的な音の揺らぎに惚れ惚れとする。第3楽章の始まり方も第1楽章と同じ手法。第4楽章も序奏の後の主部の入り方に、ワルターの手技の見事さに感動を覚える。1958年の録音なので仕方がないが、音が少しくぐもってしまうところがあるのが残念。こういう演奏を生で聴けた当時の人たちがうらやましい。

第14位:イーゴリ・マルケヴィチ/ラムルー管弦楽団 1960年
実に力強い開始である。主部に入ると激しさはエスカレート。まるで第5番を聴いているかのような錯覚に襲われる。第2楽章のアンダンテでもスタイルは変わらない。事実上のスケルツォである第3楽章は、もはやメヌエットという表記は目に入らないようで、煽りたてられたティンパニーが荒れ狂う。フィナーレ楽章に至っては、押しの強い弦楽器を先頭に、すべての楽器が我も我もと自己主張を繰り広げる。いやはや凄い第1番だ。1960年とは思えないほど録音状態もすこぶる良い。

第15位:フランツ・コンヴィチニー/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1959年
これぞ東ドイツのサウンド。暗く、渋めの演奏に郷愁をそそられる。シャルプラッテンの格調高い音質と相まって旧き良き時代に想いを馳せることができる。

第16位:カルロ・マリア・ジュリーニ/ミラノスカラ座・フィルハー管弦楽団 1991年
ジュリーニは第1番も後期の交響曲と同じようにスケールの大きい悠然としたスタイルで演奏する。音符一つ一つを大切に慈しむように奏でる様はジュリーニの人柄を体現しているようだ。ミラノスカラ座は、そんなジュリーニの意思を完全に汲み取って応えている。あれっと思うほど小さな音で始まる第2楽章はジュリーニ/スカラ座の魅力を最大限に表した究極のアンダンテ・カンタービレだ。

第17位:ヘルベルト・ケーゲル/ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 1983年
極めてオーソドックスながら、随所にケーゲルの個性を感じることができる隠れた名盤。全体的に漂う冷たさの中に、暖かみのある木管の使い方が映える。

第18位:ニコラウス・アーノンクール/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2003年
こんなにチャーミングな第1番は聴いたことがない。優しく開始される序奏から、木管の表情豊かな響きの主部へと続く。フルオーケストラでありながら室内楽的な手法を、ウィーン・フィルの名手たちが楽しんで演奏しているようである。作曲当時の楽譜に忠実な演奏スタイルは速度指定についても当時を再現していると思われ、心地良い。

第19位:ニコラウス・アーノンクール/ヨーロッパ室内管弦楽団 1990年
ややピリオド奏法が強く表れているが、基本的には前述のウィーン・フィル盤と同じスタイル。すでにアーノンクールの演奏スタイルが確立されていたことがわかる。

第20位:フェレンツ・フリッチャイ/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1953年
旧き良き時代を思わせる演奏。21分51秒という快速運転だが、軽さは全くない。フルトヴェングラー時代の音が残ったBPOの音と言われると、確かにそうなのかと。正直、フリッチャイのこの選集は第5番と第9番目当てだったのだが、第1番もなかなかの名演。この選集を買って本当に良かった。