クラシック 珠玉の名盤たち

  ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調

Ne-dutch

● 聴き比べ(続き)
第11位:ルドルフ・ケンペ/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団〈第2稿 ノヴァーク版〉1975-76年
ケンペは、作曲家が書いていないことはしない。スコアに書き込みが全くない理由を聞かれ、「全部ここに揃っているから、ここにあるとおりにやれば良い」と答えたそうだ。同じ時期に演奏した第5番同様、この第4番もすばらしい。ケンペはこの演奏の4か月後、急逝してしまうのだが、ケンペ/ミュンヘンフィルのブルックナー、もっと聴いてみたかった。まさに正統派を絵に描いたようなドイツ的なサウンドで、金管の強奏と、両翼配置で立体的な弦の響きが特徴的。ヴァイオリニストの夫人が、ミュンヘンフィルに在籍していた時期なので、この演奏にも参加していたと思われる。

第12位:オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団〈第2稿 ノヴァーク版〉1963年
クレンペラーらしからぬ高速運転。それでも重厚感あふれるスケールの大きい演奏。絶妙なバランス感の金管、ふくよかな木管の響き、ヴァイオリン両翼配置による立体的なサウンド、ロマンティックさとは無縁な武骨さを前面に出した名演。スケルツォとフィナーレは力強い金管群に圧倒される。

第13位:リッカルド・シャイー/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団〈第2稿 ノヴァーク版〉1988年
1988年、創立100周年を迎えたアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団は、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団と名を改め、常任指揮者にはシャイーが就いた。35歳という年齢以上に周囲を驚かせたのは創立以来初めてオランダ人以外のシェフ登場となったからである。前任のハイティンクは露骨に不快を示したが、この若き天才イタリア人指揮者の抜擢はコンセルトヘボウにとっては大成功となる。心配された年齢についても、既に20年以上のキャリアを持つシャイー(指揮者デビューは何と14歳!)にとっては何の問題もなかった。第4番以降6曲の録音はコンセルトヘボウとのコンビにより、屈指の名演揃いの全集は完成する。この曲も、さすがに円熟味こそ感じられないものの、美しい弦の響き、暖かい木管に加え、金管の鳴りも堂々としたバランスのとれた名盤である。

第14位:ニコラウス・アーノンクール/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団〈第2稿 ノヴァーク版〉1997年
第3番で新しいブルックナー解釈を世に問うたアーノンクールが次に取り組んだ第4番は、ややおとなしめの演奏。第3番同様、旧式の金管楽器を使用している。これは楽譜どおりに金管をフォルティシモで演奏すると木管の音がかき消されてしまうという矛盾を解消するためとのこと。気のせいかも知れないが、どことなく鄙びた古めかしさが感じられ郷愁をそそられるロマンティックである。

第15位:ゲルト・シャラー/シンフォニー・フェスティバ〈第1稿 シャラー版〉2021年
これはもう別の曲である。よって順位も番外とすべきかも知れない。冒頭から予想もつかない展開にワクワクし、第2楽章の盛り上がりも感動的。第3楽章は、まるでワーグナーのオペラのよう。フィナーレは未整理な箇所が気になるが、やはりワーグナーを思わせる箇所が随所に登場し、聴き応えは十分。シャラーが一番気にいっている版と言うだけに、力の入った演奏である。録音も良く、ライブとは思えないほど聴衆も静かで言うことなし。

第16位:シャラー/シンフォニー・フェスティバ〈第2稿 ノヴァーク版〉2007年
シャラーの第7番が欲しかったのだが、なぜか単盤がなく、やむなく4、7、9番のセット盤を購入。おかげてシャラーの第4番の2つの稿の聴き比べが可能に。好みで言えばこの第2稿の方が上だが、版の稀少性から第1稿を上位とした。

第17位:ゲオルク・ティントナー/ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団〈第2稿 ハース版〉1996年
初稿にこだわるティントナーが、なぜか第2稿を選んでいる。確かに第1稿のできは良くないが、なぜ第4番だけ初稿を避けたのか、ティントナーが鬼籍に入った今となっては誰もわからない。遅めのテンポで重厚感あふれる演奏だが、どうしてもテイストが似ているベーム盤やザンデルリンク盤の方を手にしてしまう。やはりティントナーは初稿演奏にこそ真価が発揮されるのではないだろうか。第4楽章を第00番のフィルアップとして収録された「民衆の祭」と置き換えれば1878年稿として聴くことができる。

第18位:オイゲン・ヨッフム/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団〈第2稿 ノヴァーク版〉1975年
旧盤同様、躍動感のある演奏で10年経っても骨格は変わっていない。オケの差なのだろうか、旧盤には及ばず、このくらいの順位に。

第19位:ギュンター・ヴァント/ケルン放送交響楽団〈第2稿 ハース版〉1976年
ヴァントは第4番を5回録音しているが、これはケルン放送響を振った全集の一つで最初の録音、若々しい(と言っても64歳!)ヴァントの精気漲る演奏だ。迫力ある金管、胸が弾むピチカート、聴きどころはたっぷりとある。タイムはベルリン・フィル盤と比べて約4分も速いが、高速感は感じられない。

第20位:ケント・ナガノ/バイエルン国立管弦楽団〈第1稿 ノヴァーク版〉2007年
ケント・ナガノが、粗削りな第1稿を丁寧に洗練された形で届けてくれた。実に心地良いサウンドである。貴重な第1稿だが、シャラーの第1稿が存在する今となっては、あえて持っていなくても良いかも知れない。