クラシック 珠玉の名盤たち 

  ブルックナー:交響曲第3番 ニ短調

Ne-dutch

● 聴き比べ(続き)
第11位:ハンス・クナッパーツブッシュ/北ドイツ放送交響楽団〈第3稿 改訂版〉1962年
第3番を得意とするクナッパーツブッシュは、1954年のウィーン・フィル盤とバイエルン国立管盤、1960年のウィーン・フィル盤、1962年の北ドイツ放送響盤、1964年のミュンヘン・フィル盤と、録音を5種類遺しているが、僕が持っているのはこの1962年盤だけ。クナの比較はできないが、ご容赦いただきたい。この演奏は、やや緊張の欠ける出だしだが、徐々にスケールアップ。第1楽章コーダの縦線のずらし方は見事と言う他ない。続く第2楽章は冒頭からパワー全開で、甘美さとは無縁な重厚なアダージョ。有名な「眠りの動機」は全く眠気を感じさせない。スケルツォは、まさに狂気の乱舞で、主部との親和性を重視したのか、アクセントの強いくっきりとした中間部も聴き応え十分。フィナーレは、周囲を切り裂くような第3主題の出現に恐怖すら覚え、コーダの宇宙的な荘厳さは例えようがない。フルトヴェングラーと人気を二分した不世出の天才クナッパーツブッシュの偉大さを再認識させる名演。

第12位:リッカルド・シャイー/ベルリン放送交響楽団〈第3稿 ノヴァーク版〉1985年
シャイーは期待を裏切らない。しなやかな弦楽器、ふくよかな木管、朗々たる響きの金管、心地良い打楽器は、どのオケを振っても同じ。強弱のコントラストも、効果的な残響も見事で、弱冠35歳のシャイーだが、巨匠の風格漂う演奏。DECCAの録音技術も優秀だが、ダーレムのイエス・キリスト教会の音響の美しさは比類ない。

第13位:ギュンター・ヴァント/ケルン放送交響楽団〈第3稿 ノヴァーク版〉1981年
11年後の録音同様、ブルックナーに真摯に向き合う姿勢は同じ。ヴァントの基本的なスタイルはすでに確立していたのであろう。タイムも第1楽章以外はほぼ同じ。気のせいかも知れないが、深淵さという点で、手兵NDRとの演奏の方に少し及ばず、こちらの順位を下にしておいた。

第14位:ゲオルク・ティントナー/ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団〈第1稿 ノヴァーク版〉1998年
このCDを聴いたのは何年ぶりだろうか。演奏時間は77分を超え、第1稿は全体的に未整理で冗長なためさらに長く感じられ、体感では90分くらいの大曲だ。覚悟を決めないとなかなか手が伸びない。でも聴いてみると第1稿は本当に愉しく、宝石を散りばめたように、ワーグナーの有名な旋律が次々と現れる。特に第2楽章の「巡礼の行進」は感動的で、この部分だけでも第1稿を聴く価値がある。ティントナーは必要以上に雄大に、荘厳に、深遠に、重厚に演奏し、「初稿」らしさは微塵も感じさせない感動的な第3番の名演である。

第15位:ロブロ・フォン・マタチッチ/フランス国立放送管弦楽団〈第2稿 エーザー版〉1965年
不思議な演奏である。1人1人が好き勝手に演奏しているようでいて、全体として見事な調和を保っている。統制のとれた一糸乱れぬ演奏のヴァントとは対照的。せっかくの第2稿なのにエーザー版なのが残念。

第16位:ニコラウス・アーノンクール/ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団〈第2稿 ノヴァーク版〉1994年
あれっ、冒頭のトランペットがよく聴こえない… アーノンクールらしいクセの強い演奏だ。「第1稿は非常に複雑でまとまりがなく、第3稿はカットが多すぎで統一性が破壊されている。第2稿のスケルツォのコーダは興味深い。よって、もっとも説得力のある第2稿ノヴァーク版を選んだ」とのことで、それは正に我が意を得たりといったところだが、コンセルトヘボウ管にあった版も参考にしたと語っているように、相当楽譜をいじっており、差し詰め「第2稿アーノンクール版」のようだ。研究熱心なアーノンクールなりの確信に基づいた演奏だろうが、ピリオド奏法は、ブルックナーには不向き。

第17位:ゲルト・シャラー/シンフォニー・フェスティバ〈第1稿 キャラガン版〉2011年
第1稿にノヴァーク版とキャラガン版があることは知っていたが、2つの第1稿にこれほど違いがあるとは知らなかった…このCDを手に取るまでは。第1稿は至るところにワーグナーの旋律があって魅力的だが、未整理で冗長な感は否めない。それが1874年稿キャラガン版では、すっきりとしており、自然と耳に入ってくる。しばしば第1稿であることを忘れてしまうほどだ。指揮者というよりは研究者のシャラーだが、混成オーケストラをよくまとめており、異常な遅さの第2楽章も、教会特有の残響の効果と相まって感動的な演奏である。

第18位:オイゲン・ヨッフム/ドレスデン国立歌劇場管弦楽団〈第3稿 ノヴァーク版〉1977年
極めてオーソドックスな演奏。聴いていて心地良いが、第1楽章の最後のアッチェレランドはいただけない。