「関心領域」

〜見えないのか
   見ようとしないのか〜





"その家族は
しあわせに暮らしていた
アウシュビッツ収容所の隣りで"


戦争の話は悲しくなるので
積極的には観ないのだが
印象的な題名と
このキャッチコピーに惹かれ鑑賞しました

物語はびっくりするほど
キャチコピーの通りの内容で
収容所の所長に就くこの家の主人ヘスは
家族と立派な住宅に住み
使用人もいて
広い庭には温室もプールもあり
休みには川でピクニックと
裕福で幸せそう


でも、
ここは壁ひとつ隔てただけの収容所の隣


隣の様子は見えないが
それでも
あちらから音は聞こえてくる

遺体処理のため一日中
稼働されてる焼却炉の煙突からは
煙が排出され
妻の自慢の庭の
プールではしゃぐ子供たちにも
美しい花にも
焼却炉の灰は降り注ぐ

子供たちは時折り咳をしてるし
なんの匂いもないとは
思えないのだが…


一家は実在の人物で
収容所所長ルドルフ・ヘス一家
家も庭も忠実に再現され
残された家族写真を見ると
本当にそのままで
その事実に息苦しくなりました

あえて
隣のことは見せず音だけで
徹底して穏やかな一家の日常を
描写することで
そうではないあちらを想像させられ
戦争になれば
敵は人間じゃない
どんな残酷なことも麻痺して
関心の領域じゃなくなってしまう

なんて怖いことだろう

劇中
外作業の収容者のために夜に紛れ
りんごを隠し差し入れる少女の話が
出てきます
少女も実在の人物で
なんとか助けたいと行動する人もいた
良心を感じさせるエピソードですが
この場面はサーモグラフィーで表現され
おどろしい音楽もかかり
少女はモノクロ

ヘス家の夏の庭が色鮮やかで
美しいのとは対象的です

恐ろしい話のなか救いになる
場面なのに興味深い映像表現でした

ジョナサン・クレイザー監督は
ヘス夫妻は化け物じゃないと言います
彼らが望むものは私たちと変わらない
自分を重ねて観てほしいと

自分も
ホロコーストのことを知っているが
時の流れとともに
風化しいつの間にか無関心領域に
いたかもしれない


残酷な事実より
あえて
普通の生活を見せることで
投げかけられる問いは直球で

正直
映画としては面白くないが
"すごい"作品だと
思わずにはいられない

観てよかった
面白くはないんだけど