私たちの暮らしで一番身近な動物は、
実は、犬や猫ではなく、畜産動物かもしれません。

とは言え、食卓にあがる卵や牛乳や肉が
どんな環境で飼育されているかは、
日頃、ほとんど話題になりません。
そんな動物たちを「アニマルウエルフェア(AW)」という
概念から考える貴重な機会がありました。

講師は
信州大学    学術研究院農学系准教授   竹田謙一先生です。

新潟県獣医師会 公衆衛生部会主催で、会場には獣医師の先生の他、一般の方も多数参加していました。

さて、AWはヨーロッパで提案されて、「動物福祉」と訳されます。
人に対して使っている「福祉」とは意味が違うので
誤解している人も多いそうです。そのため、「コンフォート」
というアメリカ式の言葉を使うこともあるそうです。

これは、かわいそうだから何とかしてあげて、ではなく、
動物たちの心と体に配慮した飼育をすれば、
結果的に生産性がアップするので、
家畜は意識のある存在(心のある存在)という
配慮にたって畜産を考えるべき、ということです。

この概念が生まれたのは、
かつて、ヨーロッパでは生産性だけを重視するあまり
家畜に対する残虐な扱いや薬物汚染の過去があったためで、
それを批判した「アニマルマシーン」(とても怖い言葉ですね。)
という本まで出版されたくらいです。

それが、今やヨーロッパでは「AWに配慮した商品」が、
付加価値のある畜産品としてビジネスの戦略になる
というのですから、不思議なものです。

ヨーロッパでは北欧で特にAWの意識が高く、
牛は85%が放牧で飼育されています。
日本は逆に85%がつながれて飼育されています。
卵も北欧では6割以上の方が放牧された鶏の卵を購入するそうです。

AWを考える基本となる5つの自由があります。
1、飢え、渇きからの自由
2、不快環境からの自由
3、痛み、傷、病気からの自由
4、正常な行動を表現する自由
5、恐怖や苦悩からの自由

これらが配慮されていないと、家畜は異常行動や、
葛藤行動(心理的錯乱)を取ることがあります。

夏の暑い時期に扇風機をあてて餌を与えた牛は乳量が減らず、
あてなかった牛は徐々に量が減ります。
牛の尻尾を切ったり、餌を食べ易くするために鶏の嘴を切ったり、
かつて、さまざまなことが行われていましたが、今は徐々に廃止されているそうです。
仲良しの牛を隣に置くことで精神的な安定が図れたり、
牛を番号ではなく、名前で呼ぶことで乳量が増えるなど、
ほんの少しの配慮がAWに影響する場合もあります。

乳牛のつなぎ方にはいくつかの方法があります。
もっとも牛の自由を奪うのはスタンチョンストールで、
金属製のU字パイプで牛の首を固定します。
タイストールは左右の鎖でつなぎます。
ニューヨークストールは、外飼いの犬のような印象で、
1本のチェーンで牛をつなぎます。
AWの評価のうち、正常行動発現の自由という項目では、
放牧やフリーストールと比較して、これらの繋ぎ飼いの牛の
評価は大きく低下します。
新潟大学の農場では、今もスタンチョンストールで
牛が飼育されていると聞いて、がっかりしてしまいました。

ただ、日本の社会でAWが進まないのは
畜産業者の方々ばかりに責任があるとは言えません。
消費者のニーズによって社会は変わります。
私たちが暮らしの中でAWに配慮した商品を求めること、
そのニーズに応じた情報を関係者が発信することが必要とのことでした。

畜産技術協会の調査によると、
生産者の6割がAWという言葉を知らないと答える一方で、
30代、40代の消費者は、AWに配慮した畜産物を買いたいと思っているそうです。
私たち消費者が何を求めていくのかが、とても大切な選択と言えるでしょう。
 
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地道な調査研究を通して、長野県はAWに配慮した畜産認定基準
「信州コンフォート」の取り組みを行っています。
生産性とそれを生み出す動物の福祉のバランスを考えるのは大変な作業ですが、
日本でもその時代は確実に近づいていると思います。

NDN 岡田朋子