ワタナベミユキは、ワタナベマユを見舞った
「なんで乃木坂に行ったん? 優子さんに行くなって言われてたやん」
マユは遠い目をした
「決着をつけたいと思ったから」
ミユキは、マユが何かを隠してると確信した
「あんた、誰かをかばってるんとちがう?」
マユはミユキをみない
「自分で決めたことだから…」
「そやなあ… あんたの気持ちはわかった もう何も聞かへん」
目を逸らすマユの綺麗な黒髪を撫でて、ミユキは席をたった
ミユキは栄のキザキユリアに連絡をとった 乃木坂にかちこみをかけるから、付き合って欲しいと ジュリナとのたいまんでのキザキの真っ直ぐな戦い方に、信頼感を抱いたからだ 大将であるヤマモトサヤカが絡んだ事案である 信用できない人間に頼むわけにはいかない 考えてみれば、おかしな話である 栄となんばはてっぺんを争うライバルなのだから しかし、キザキは何も聞かず「わかった」とだけ言った 「明日、そっちに向かう」
シライシマイから、優子とのたいまんを急かすメールがヤマモトサヤカに送られてきた ヤマモトもやる気満々であったが、ミユキが引き止めた
「そんなに慌てんでもいいやん 優子さんは、マユのことで忙しいらしい マジ女がごちゃごちゃしてるときにやるのは、ちょっと卑怯な気がする」
苦しい理由をつけたが、ミユキに卑怯と言われると、ヤマモトは二の足を踏む ミユキに認めてもらえないのなら、優子に勝っても意味がないのだ
「そやなあ マユが退院してからにしよか 美味しいおかずは最後まで食べん」
ヤマモトが微笑む
「そやで サヤカちゃん、唐揚げにいきなりレモンしぼるから レモンは食べる直前にしぼった方が美味しいんやで」
ミユキも微笑む
「細かいなぁ…」
サヤカが拗ねた顔をした
「なんで理由を聞かんのや?」
ミユキとユリアの視線が絡む ジュリナを睨みつけたときと同じで、一点の曇りもない眼差しだった
「理由なんかどうでもいい 戦うか戦わないか、それだけだ いやなら断るし、いやじゃないからここにいる ひとつだけ言えることは、わたしにしか頼めないから、わたしに頼んだってことだ 困っているひとを見殺しにするわけにはいかない」
そう言うと、ユリアは微笑んだ
「ちょっとカッコつけ過ぎだね」
ミユキは体の芯が熱くなるのを感じた 負けた…こいつはうちよりもだいぶでかい…
「お人好しやなぁ もしかしたら、わなかもしれんで」
遠い目をするユリア
「わなにはめて、てっぺんをとったところで、意味ないだろ」
ミユキにも、ユリアの視線の先にあるマジ女のてっぺんが見えた気がした
ミユキとユリアは、乃木坂の兵隊に見つからないように校舎内に潜入した 雑魚を相手にしているひまはない レナとイタノトモミがやられたのだから、自分たちもやられるに違いない ミユキは、シライシだけを倒すことを目標にしていた ミユキの目が見覚えのあるヤンキーをとらえた ミユキはそっとハシモトナナミに近づき、羽交い締めにした
「おとなしくしとったら、危害は加えん シライシさんのところに連れていって」
ハシモトもかなりの使い手なのだが、ユリアの鋭い眼光におののき、反撃することを躊躇った
「わかった ただし、ただで済むとは思うなよ」
ふたりはハシモトに連れられて、シライシら幹部のいる部屋に入った
「何だ、てめえら」
シライシが怒鳴る
「ミルキーや」
マツムラサユリがシライシの後ろに隠れた
「ああ、大阪の」
シライシが微笑んだ
「あれ、サヤカちゃんは」
「今日はうちだけや こっちは栄のキザキユリア いずれはマジ女グループのてっぺんに立つひとやから、紹介しとこ思うてな」
ミユキも微笑んだ
「はじめまして、キザキです」
ユリアがシライシを睨み付けた
「あれ、あんまり友好的な雰囲気じゃないね で、何しに来たの」
シライシの顔つきが一転して険しくなった
「あんた、何たくらんでるんや マユをふくろにして、マジ女が黙ってるはずないやろ」
ミユキは相変わらず微笑んでいる
「あれは…」
と、その時、コジママコが入ってきた
「ちわーす」
マコとミユキの視線がぶつかる
「あんたは、マジ女の…」
「あれれ、ワタナベさんじゃないっすか それにキザキさんも 先輩たちも、乃木坂さんとつるんでたんですか」
慌てる素振りひとつ見せないマコ
「そうか、読めたで あんたがマユをはめたんやろ」
ミユキの顔から微笑みが消えた
「えっ、はめたって人聞きの悪い わたしはただ、マユさんに助けてくださいって言っただけですよ でも、マユさんが弱過ぎるんで、わたしはシライシさんのパシリをやらされてるんです 弱い先輩を持つと、後輩は苦労しますね」
マコが泣く振りをした
「マユは、あんたのことをかばってるんやで 優子さんに怒られるかもしれんのに、自分独りの考えで落とし前をつけに行ったってな あんたがマユを誘きだしたんやな」
ミユキがマコの胸ぐらを掴む
シライシが立ち上がった
「今日はサヤカちゃんの顔にめんじて許してやるから、こいつを連れてさっさと帰れ」
ユリアが前に出る
「てめえ、マジ女をなめてんのか」
シライシが口を歪めて笑う
「なめてるよ、それがどうした」
「ユリア、そいつはうちにやらして」
ミユキがユリアを制した 気が付けば、数十人のヤンキーに取り囲まれている
「あんた、サヤカちゃんをたぶらかしてどうするつもりや」
「たぶらかすって、どういう意味や サヤカは、優子とやりに来たんやろ」
また大阪弁がうつるシライシ
「なんでそれを知ってるんや やっぱり、こいつがちくったんやな」
マコを指差すミユキ しかし、マコはいっこうに動じない
「ふん、ばれたらしゃーないな サヤカに、乃木坂側の人間として優子と戦ってもらいたかったんや サヤカが勝とうが負けようがどうでもいい うちとサヤカが盃交わして、関西連合と組んで、全国制覇するつもりやった くそっ、お前のせいですべてが水の泡や ほんまやったら、口を封じたいとこやけど、殺すわけにもいかんしのぅ こうなったら、痛い目にあわしたる おい、誰か、金属バット持ってきてくれ」
シライシとミユキが睨み合う
すでに、ユリアとハシモト、マツムラが小競り合いを始めていた
「ミルキー、他はうちにまかせとき」
「どいつもこいつもけったいな関西弁使いよって(笑) 馬鹿にしとんとちゃうか もう頭にきた 久しぶりに暴れたる」
ミユキの前に立ちふさがった数名のヤンキーを蹴散らし
「シライシ、かかってこいや」
と雄叫びを上げた
ワタナベミユキとキザキユリアがふたりっきりで乃木坂学園にかちこんで、ヤンキー数十名を倒したという噂は日本中を駆け巡り、マジ女に新しい風が吹き始めていることを全国に知らしめたのだった…

